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Full text: 137 lines
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[001]          夢を見る。
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[002]          夢を見る。
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[003]          恐い、夢。
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[004]      夢はいつも
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[005]      クラクションの音と
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[006]      急ブレーキの音から始まる。
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[007]        ほら、今日も……。
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[008]      そして、
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[009]      飛び込んできたトラックに
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[010]      わたしはぶつかるの。
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[011]   ――わたしは、トラックにはねられた――。
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[012]     ……これはわたしの身体の記憶?
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[013]  交通事故に遭ったわたしの肉体の細胞の
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[014]  ひと粒ひと粒が覚えている、これは過去の記憶?
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[015]         それから――。
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[016]         心地よい場所。
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[017]    もしかしたら、
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[018]    これは、臨死体験なのかもしれない。
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[019]   あの世とやらがあればの話、なんだけど。
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[020]     そして、わたしに話しかける、声。
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[021]         「生きなさい」
>

[022]     「あなたは……あの子の分まで
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[023]      生きなければいけないのよ」
>

[024]      きっとわたしは
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[025]      瀕死の重傷を負ったんだよね。
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[026]      でないと、こんなに必死に
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[027]      呼びかけてもらえないもの。
>

[028]     わたしにお姉ちゃんがいたら
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[029]     きっとこんな感じなのかなぁ……。
>

[030]      「目を開けなさい。
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[031]       死ぬなんて、許さないわ」
>

[032]   厳しさと優しさが
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[033]   絶妙のバランスで混ざり合ったような、声。
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[034]    ……もっとこの声に包まれていたい。
>

[035]       「かおりちゃん……、
>

[036]        死なないで、お願い」
>

[037]       ああ、あなたも
>

[038]       泣かせちゃったね……。
>

[039]        「ごめんね、
>

[040]         ―――ちゃん……」
>

[041]        思わず、唇が動いた。
>

[042]     けれど
>

[043]     肝心の部分が、聞こえなかった。
>

[044]        名前が、わからない。
>

[045]     ごめんね、
>

[046]     わたしは知っているはずなのに、
>

[047]     あなたの名前がわからないの。
>

[048]    わたしの声、わたしがしゃべったこと、
>

[049]    なのに、肝心の部分が
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[050]    自分ではわからない……。
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[051]     わからないことが、不安をあおる。
>

[052]       ……ねぇ、
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[053]       あなたたちは誰なの……?
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[054]【かおり】
>

[055]「……ぁ……」
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[056]ゆっくりと目を開ける。
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[057]暗い、部屋。
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[058]これは……夢の続き?
>

[059]ゆっくりと起き上がる。
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[060]目が慣れてくるに従って、
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[061]ここが自分の部屋だとわかってくる。
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[062]【かおり】
>

[063]「はっ、今、何時!?」
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[064]枕もとの目覚まし時計を手に取った。
>

[065]【かおり】
>

[066]「六時五分!?」
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[067]文字盤の針に混乱する。
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[068]六時、って、朝の六時?
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[069]それとも、夕方の六時!?
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[070]今日の勤務は何!?
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[071]お、落ち着かなきゃ……。
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[072]そう、深呼吸して……。
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[073]【かおり】
>

[074]「…………」
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[075]そうだ、ケータイ!
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[076]ケータイを見ればわかるよね。
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[077]明かりをつけて、
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[078]カバンの中をゴソゴソとさぐる。
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[079]【かおり】
>

[080]「……えっと」
>

[081]ディスプレイを確認すると――。
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[082]【かおり】
>

[083]「六月十七日、十八時七分。
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[084] ……夕方か……」
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[085]【かおり】
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[086]「って、夕方!?」
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[087]一瞬、混乱する。
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[088]まさか、今日は日勤だったのに爆睡した挙句、
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[089]夕方まで寝こけてたとかじゃないよねと
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[090]どきりとした。
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[091]落ち着いて、勤務表を確認する。
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[092]【かおり】
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[093]「えと……、沢井かおり……、
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[094] 十七日は……明け……?」
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[095]ホッとした。
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[096]そう……、
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[097]今日は夜勤明けで、
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[098]この部屋にはお昼前に帰ってきたんだっけ。
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[099]初めての夜勤はすごく大変だったな……。
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[100]おっかなびっくりの連続で、
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[101]なぎさ先輩にすっごくフォローしてもらって、
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[102]朝、主任さんの顔を見て
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[103]思わず泣き出しちゃったんだっけ。
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[104]うわ、思い出したら、
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[105]すごく恥ずかしくなってきた……!!
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[106]【かおり】
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[107]「うう……」
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[108]もう一度、ベッドにもぐり込む。
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[109]今日はもう勤務がないから
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[110]二度寝しても大丈夫。
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[111]寝ようとして
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[112]チラッと見たケータイには
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[113]メールの着信があった。
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[114]【なぎさ】
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[115]『初夜勤、お疲れ!
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[116] 戸惑ったこともあるだろうけれど、
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[117] 少しずつ慣れていこうね!』
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[118]……なぎさ先輩……。
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[119]すごく迷惑かけちゃったけど、
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[120]なぎさ先輩がいたから
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[121]わたしは初夜勤を乗り切れたんだよね。
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[122]メール打たなきゃ。
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[123]【かおり】
>

[124]「えっと……。
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[125]『お疲れ様です、夜勤ではお世話になりました!
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[126] なぎさ先輩のお陰で無事に乗り切れました!」
>

[127]【かおり】
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[128]「少しずつ、って言ってもらえると
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[129] 気が楽になります。
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[130] ありがとうございました!』……と」
>

[131]【かおり】
>

[132]「はい、送信!
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[133] あ、もしかしたら
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[134] なぎさ先輩、寝てるかも……?」
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[135]わたしのメールの着信音で
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[136]起こしちゃってなきゃ
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[137]いいんだけど……。
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