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Full text: 209 lines
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[001]■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
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[002]はつみルートがここで決定されました、
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[003]ただしバッドエンドへの分岐有り。
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[004]■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
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[005]……ふと、意識が浮上する。
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[006]誰かがドアを叩いてる……。
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[007]しばらくすると、何も聞こえなくなった。
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[008]【かおり】
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[009]「…………」
>

[010]……あの音は何?
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[011]誰かが来たの?
>

[012]……わたしを、殺しに……?
>

[013]……もういいよ。
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[014]もう、好きにしたらいい……、
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[015]どうせ逃げられないんだから。
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[016]【???】
>

[017]「沢井さん!
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[018] しっかりなさい!」
>

[019]え……、
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[020]この声は……?
>

[021]目を開けると
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[022]主任さんの顔があった。
>

[023]【はつみ】
>

[024]「沢井さん!
>

[025] 気がついたのね!」
>

[026]不意に、ぶわっと涙が溢れた。
>

[027]【かおり】
>

[028]「しゅ、主任さん!」
>

[029]がしっと抱きつく。
>

[030]主任さんは嫌がらずに、
>

[031]そっと、けれども強くわたしを抱きしめ返してくれた。
>

[032]【かおり】
>

[033]「主任さん……、主任さん!」
>

[034]【はつみ】
>

[035]「バカね……泣いたりして」
>

[036]あやすように揺らされる。
>

[037]それだけで、
>

[038]恐怖に凍り付いていた心が
>

[039]溶けてゆくような感じがする……。
>

[040]【はつみ】
>

[041]「どうしたの?
>

[042] 何か怖い夢でも見たの?」
>

[043]優しい声が
>

[044]心まで流れ込んでくる。
>

[045]優しい主任さん。
>

[046]なんか……変なの。
>

[047]でも、それでもいい。
>

[048]優しい主任さんは大好き。
>

[049]【かおり】
>

[050]「……わたし、殺されちゃうんです」
>

[051]【はつみ】
>

[052]「殺されるの?
>

[053] 誰に?」
>

[054]主任さんに抱きついて、
>

[055]昨日から離れなかった恐怖を訴えた。
>

[056]【かおり】
>

[057]「運転席に座った、怖い顔をした男の人が、
>

[058] 笑いながら、わたしを殺しに来るんです……」
>

[059]【はつみ】
>

[060]「悪い夢を見たのね、可哀想に」
>

[061]主任さんは笑わずに聞いてくれる。
>

[062]【はつみ】
>

[063]「いいのよ、大丈夫。
>

[064] あなたは何も心配しなくてもいいの。
>

[065] わたしに任せておけばいいのよ」
>

[066]その声で心が安らぐ。
>

[067]【はつみ】
>

[068]「あなたの怖い人は
>

[069] きっともう出てこないわ……。
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[070] わたしがそう言って、追い払ってあげるから」
>

[071]バカなことを言うなとか、
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[072]ただの幻想だとか、
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[073]きっと笑い飛ばされると思ってたのに。
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[074]主任さんは真面目に
>

[075]わたしの話を聞いてくれた……。
>

[076]【かおり】
>

[077]「本当に……?
>

[078] 本当にもう現れないんですか?」
>

[079]【はつみ】
>

[080]「わたしの言葉が信じられない?
>

[081] わたしが今まで、
>

[082] あなたにウソを言ったことがある?」
>

[083]心に染み込む、主任さんの声。
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[084]今までの主任さんとのやり取りを思い浮かべる。
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[085]厳しくて、怖かったけれど、
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[086]でも、主任さんはいつも真正面から
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[087]わたしを受け止めてくれていた。
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[088]そう、使えない新人のわたしでも
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[089]ひとりの看護師として見てくれてた……。
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[090]【かおり】
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[091]「……ない、です」
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[092]クスクスと耳元で主任さんが笑う。
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[093]吐息が耳に触れて、くすぐったい。
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[094]【かおり】
>

[095]「……おねえちゃん……」
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[096]口をついて、言葉が出ちゃった。
>

[097]でもいいの。
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[098]ここは詰所じゃないから。
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[099]ここはわたしの部屋。
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[100]今は主任さんとふたりきり。
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[101]主任さんをお姉ちゃんって呼んだからって
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[102]笑う人は誰もいない。
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[103]【はつみ】
>

[104]「……なぁに?」
>

[105]【かおり】
>

[106]「うん……呼んでみただけ」
>

[107]【はつみ】
>

[108]「もう、甘えっ子さんね」
>

[109]甘ったるい会話。
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[110]【はつみ】
>

[111]「いいのよ、気の済むまで甘えても。
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[112] 今日だけは許してあげるわ」
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[113]心が……心の奥深くから
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[114]安らぎが広がってゆく。
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[115]【はつみ】
>

[116]「ホットミルクができたわ。
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[117] 好きでしょう、あなた」
>

[118]ホットミルクを受け取ると
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[119]手のひらがじんわりと温かくなった。
>

[120]【かおり】
>

[121]「うん……大好き」
>

[122]返事をした後で、
>

[123]ふと不思議な気分になる。
>

[124]あれ……、主任さん、
>

[125]どうして知ってるんだろう?
>

[126]わたし、
>

[127]ホットミルクが好きだなんて
>

[128]主任さんに言ったっけ?
>

[129]…………。
>

[130]うん、きっと言ったんだよね。
>

[131]たぶん、シナモン大好きって言った時にでも
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[132]主任さんに教えたんだよ、きっと。
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[133]口をつける。
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[134]ふわっと、はちみつの優しい味が広がる。
>

[135]その懐かしい味に涙が出ちゃった。
>

[136]【はつみ】
>

[137]「バカね、泣くなんて」
>

[138]【かおり】
>

[139]「だって……、だって……」
>

[140]【はつみ】
>

[141]「お望みなら、また作ってあげるわ。
>

[142] だから……ね?」
>

[143]【かおり】
>

[144]「うん……、うん……」
>

[145]【はつみ】
>

[146]「もう……、あなたったら
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[147] 髪がくしゃくしゃよ?
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[148] 女の子なんだから可愛くしないと」
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[149]主任さんが背後に回る。
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[150]【はつみ】
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[151]「今日はわたしがやってあげるわね」
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[152]ブラシを手にした主任さんが、
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[153]絡んだわたしの髪を優しく梳き解してくれる。
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[154]それから、
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[155]きゅっと髪をひとつに結ばれた。
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[156]【はつみ】
>

[157]「うん、可愛い。
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[158] やっぱり似合うわね、この髪型」
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[159]ニッコリ微笑まれて、照れちゃった。
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[160]だって、その微笑みが、
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[161]すごく優しかったんだもの。
>

[162]【はつみ】
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[163]「あ……ちょっと待っててね」
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[164]【はつみ】
>

[165]「はい、大塚です」
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[166]主任さんが玄関へ行く。
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[167]向こうで電話をしている。
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[168]何だろう……、
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[169]でも、なんだかやだな。
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[170]せっかく気持ち良く甘えてたのに……。
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[171]しばらくして主任さんが戻ってきた。
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[172]【はつみ】
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[173]「病棟でトラブルがあったようなの。
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[174] わたしは病棟に戻るけれど……、
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[175] あなたは今日はこのまま休んでいていいわ」
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[176]【かおり】
>

[177]「おねえちゃん……」
>

[178]わたしの呼びかけに、
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[179]主任さんは切なそうな目でわたしを見た。
>

[180]【はつみ】
>

[181]「また、会えるかしら?」
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[182]【かおり】
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[183]「わかんない」
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[184]口をついて言葉が出る。
>

[185]なんだか、ふわふわした感覚。
>

[186]まるで夢の中での出来事みたいに、
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[187]現実感がない。
>

[188]主任さんが立ち上がる。
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[189]その手を掴もうとして――、
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[190]でも、何故か、身体が動かなかった。
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[191]【はつみ】
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[192]「……では、またね」
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[193]主任さんが出て行く。
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[194]わたしをひとりにして。
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[195]ひとり、取り残された部屋。
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[196]満たされたような、さみしいような、
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[197]不思議な気分。
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[198]でも、もう恐怖は感じない。
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[199]【かおり】
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[200]「…………」
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[201]ホットミルクに口をつける。
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[202]何故か異様に甘ったるく感じた。
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[203]どうしてだろう、
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[204]さっきまでは、すごく懐かしい味だと
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[205]感じてたのに……。
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[206]でも……
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[207]主任さんの優しさに元気が出た。
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[208]今日は主任さんの言葉に甘えることにして、
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[209]明日からまた頑張らないとね。
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