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意識が戻ると、そこは祠の舞台の上だった。
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意識を失っていた間、私は寝かされていたらしい。
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ゆっくりと身体を起こすと、視界に無数の人影が映る。
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遠山先輩が松籟会の……お爺さんと何か話していて、
近くでは中村さんが叔母さんに言い寄っていた。
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全部、終わってくれたのかな……?
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「ヨーコ先生、カナカナが目を覚ましたよ!」
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「はーい、でもヤヤちゃんは傷が開いたので、
(BROKEN:8_20)
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足音が聞こえ、振り返ると学園長が私を見下ろしていた。
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「高遠さん、無事にやり遂げてくれましたね」
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どこか優しげに微笑む学園長を見て、私は安堵する。
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終わってくれたんだ、と実感できた。
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すぐに奈岐の姿を探すため、学園長に声をかける。
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「――――」
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「……?(BROKEN:8_20)
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「…………、……、……?」
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何が起きているのか自分でも分からず、まばたきを繰り返す。
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「高遠さん?(BROKEN:8_20)
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「…………!」
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声が出ていなかった。
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言葉が紡げていなかった。
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「まさか……高遠さん、返事を」
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「……、……!」
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口を動かし、息が漏れるだけで――言葉が出ない。
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「そんな……高遠さん……?」
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「……カナカナ?」
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自分の口を押さえる。異常はない。
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次に喉を押さえる。異常はない。
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身体は?(BROKEN:8_20)
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異常はなかった。
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でも、声だけは出なかった。
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「…………!!」
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視線を彷徨わせ、奈岐の姿を探す。
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きっと奈岐に会えば、全部分かるような気がしたから――。
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「――――!」
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奈岐はすぐ近くで寝かされていた。
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あれだけの無茶をしたせいか、身体中が傷だらけになっている。
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「……鼎、無事だったか」
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駆け寄り、抱き起こすと奈岐がうっすらと瞼を開いた。
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私が唇を動かし、何度も息を漏らす様子を見ると、
奈岐は僅かに目を細めた。
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「そうか、鼎も……持って行かれたか……」
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「そうだな……鼎の言葉に力があった。それを取られるのは、
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身体に力が入らないのか、
奈岐はぐったりとした様子で語り続ける。
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「門を閉じる時……奈岐も鼎も……向こうの瘴気を浴びすぎた。
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魂の一部を……失う?
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「ああ、そうだ……最も強い力を持っていたもの……
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「鼎の言葉には……力があるからな……」
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どこか悲しげに奈岐が微笑み、息を吐き出す。
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「きっと奈岐も何かを失っただろう……この意識が途切れて、
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無くしたものは戻らない……?
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私は言葉を無くし、奈岐は……。
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「断定は出来ない……だけど、難しいかもしれないな……」
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「でも、鼎……奈岐達は生きた……約束を果たせたな」
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「…………、」
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でも、その約束はこれからも続く。
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一緒にいること、独りにしないこと。
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「……そうだな、鼎と一緒にいることが出来る」
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「良かった……奈岐は幸せだ……」
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そう言った奈岐が苦しげに息を吐き出す。
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「はぁっ……ぅ……なあ、鼎……聞こえているか?」
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呼びかける奈岐に頷き、頭の中でも返事を繰り返した。
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「奈岐は……何を取られたのだろうな……?」
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「ただ……無くしたくないものだけはある」
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奈岐の指先が微かに動いた。
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きっと腕が上がらないのだろう。
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私はその手を取ると、指を絡ませあった。
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「そう、この……感覚だ……」
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「鼎を思う気持ちだけは……取られたくない……」
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「…………」
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「鼎……これからも……一緒に……」
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言葉が途切れ、奈岐が力尽きるように目を閉じてしまう。
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だから、頷く。何度も頷く。
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私が頷いていることが分かってくれるまで頷く。
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「そうか、ありがとう……これで……安心して、休める……」
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「鼎……奈岐は……鼎が大好きだ……」
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私も奈岐が好き。
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奈岐を愛しているから。
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だから、安心して眠っていいよ。
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私に言葉が無くなっても、奈岐には伝わるから――。
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「…………」
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あれだけ泣いたのに、まだ頬に涙が零れる。
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これは生と死の境界を閉じた代償なのだろうか?
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それとも私のやり方が間違っていたのだろうか?
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でも、もう戻ることは出来ない。
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だから、私らしく前を向こう。
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何があっても、奈岐を独りにしない。
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約束の言葉を繰り返し、今は奈岐がゆっくりと休めるように、
その身体を床に横たえた。
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…………。
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約束という言葉の意味。
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数ヶ月後、その本当の意味を私は知ることになる。
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「絶対に……約束だから」
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「私が奈岐とって唯一なら、絶対にその約束を守らないとね」
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「……うん」
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「約束、奈岐を独りにしない」
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「うん……約束」
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交わした約束は呪いとなる。
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身を縛り、心を縛る――呪縛となった。
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