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夕方が来て、私は軒下に座りながら、空を眺めていた。
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奈岐は社の中で、書き留めたノートを再読している。
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どうしても付き合える気分になれなくて、
私は社の外で、無為な時間を過ごしていた。
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「ねえ、ガジ、私にはお母さんと同じ血が流れているんだよね?」
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隣で丸まっていたガジに何となく話しかける。
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お母さんは贄とならず、儀式で生き残り、
末来さんを助けるために封印を解いた。
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あの実態を知った上で封印を解くなんて、
ホントに滅茶苦茶なことをする人だと思う。
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封印を解くことで、どうして末来さんを助けられたのか
分からないけど……一つだけ言い切れることがある。
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思い込んだら真っ直ぐで、どこまでも自分の意志を貫く――
そうすることが出来る力を、お母さんは持っていた。
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でも、私は?
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このままだと、間違いなく奈岐は無茶な力を使ってしまう。
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私との約束を一方的に守り、そして何もかも終わりにする。
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「ガジ、私には何が足りないんだろう?」
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「ニャン?」
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ガジが私の問いを理解出来るはずもなく、小首を傾げていた。
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「自分の意志を貫けるほどの強さ……
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「三輪さんなら血筋とか言いそうだけど、
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お母さんの勾玉を手に取り、空にかざしてみる。
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綺麗な空色をした勾玉――中心に向かうにつれて、
青色が濃くなる不思議な石だ。
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こうして勾玉をまじまじと眺めてみて、ふと思うことがあった。
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「……どうして私の石だけ勾玉なんだろう?」
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これが星霊石だとして、他のみんなのは球体になっている。
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島の外から持ってきたものだから、と思っていたけれど、
星霊石の加工は諏訪家が行うものらしいし……。
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勾玉の形に諏訪家がわざと加工したことになる。
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「お母さんが諏訪家の人だから……?」
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そんな特別扱いが許されるのだろうか?
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許されそうな人ではあったみたいだけど……うーん?
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「それに、理事長の話だと……お母さんは一人で戦って、
(BROKEN:8_20)
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一対の相手について言及すらされていなかった。
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ますます分からなくなってきて、考えを中断させる。
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そして、私はため息をつきながら、軒下で寝転がった。
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「はぁ、お母さん……今が最大の山場だよ」
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「私、好きな人を失うなんて絶対に嫌だよ……」
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何も語らなかった奈岐の横顔を思い出せば、
また瞳から涙が溢れ出しそうになる。
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例え封印に成功したとしても、そこに奈岐がいなければ、
私にとっては……成功なんかじゃない。
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「ニャーン……?」
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「んー、泣いてないよ。ガジ、心配してくれてありがと」
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目元を手の甲で(BROKEN:8_20)
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儀式までの一週間――
きっとここが正念場になると思う。
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私もお母さんみたいに真っ直ぐ進まないといけないのに。
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「……しないといけないって考える癖、直らないなあ」
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ふと末来さんに指摘されたことを思い出して苦笑する。
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島に来た頃は、ずっとしっかりしないといけないって、
思っていた。
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思い描いた通りに出来ていたかは疑問だけど、
でも私は真実に辿り着きつつある。
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だからこそ――最後の強さが何かを知りたかった。
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「お母さん……答えを聞いたらダメだよね」
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「うん、儀式の時までに絶対に見つけないといけない」
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と……またいけないって言ってるし。
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お母さんに似て、こんなところまで頑固な娘になったのかな?
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「よし……」
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勾玉を握り締め、私は深呼吸をしてから身体を起こす。
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夕陽の赤が淡くなり、もう間も無く陽が沈もうとしていた。
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「――待ってて、お母さん。
(BROKEN:8_20)
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自分の背中を自分で押すことが出来る……
そんな最後の強さを見つけてみせるから。
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心の中でお母さんに誓い、
熱を放つ勾玉を胸に抱いた。
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The Rain and the Other Side of You
Hana ni Arashi
Kakegurui Yorozu
Tsubakuma!
Someday, We'll Get There
Honto no Kokoro
Hayate X Blade
Motto Hanjuku Joshi
Yuunagi Marbled
Strange Babies