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翌朝、私達は先生から地震のことを改めて知らされる。
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先生は繰り返すように、あれが地震だと言っていた。
そのことが余計に気になってしまう。
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そして、御花会のメンバーにだけ、昨晩から末来さんの行方が
分からなくなっていることを知らされた。
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学園に来ても、学生達の話題は地震のことばかり聞こえてくる。
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末来さんのことや、穢れの気配については誰も話していない。
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知っているのは御花会の人間と……
学園でもごく一部の先生と松籟会の人達だけだろう。
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また事実が嘘で塗り固められていく――
そんな光景を見ているかのようだった。
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昼休み、食堂でも昨晩の話題が飛び交っている。
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港で被害が出たと誰かが言えば、それは誤報だと誰かが切り返す。
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実際のところ、どちらが正しいのかは分からない。
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ここから港までは遠く、学園や寮は、まるで隔離されたかのように
森の奥に佇んでいる。
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朝一で情報を集められる学生も限られているだろう。
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「やっほー、カナカナ」
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八弥子さんの声が聞こえたかと思えば、
向かいの席に腰をかけていた。
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「あ、こんにちは、昨日の晩は平気でした?」
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周りを気にしていたわりに、自分も地震の話題を口にしている。
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不意に出た言葉とはいえ、なんだか複雑な心境だった。
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「平気平気。寝てたら、ガジが飛び乗ってきたのかと思ったよー」
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そんな八弥子さんらしい答えを聞いて、思わず笑みが零れる。
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「カナカナ、ミライっちはね、不思議ちゃんだから、
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「……そう、ですよね。ちょっと天然なところありますし」
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末来さんを気にしていること、あっさりと見抜かれてしまって、
ちょっと苦笑してしまう。
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「うんうん。それとも、もしかしてさ、カナカナとナギっちが
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「あはは……もしそうだったら、ちょっと困りますね」
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私の答えを聞いて微笑んだ八弥子さんが周囲に目をやる。
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「ね、ナギっちは?(BROKEN:8_20)
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「奈岐は学園周辺を調べに出てます。
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「調べるって……昨日の被害とか?」
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あえて地震とは言わなかった気がする八弥子さんに頷く。
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「そうですね、何だか胸騒ぎがするので」
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「んー、ヤヤも少し気になることあるけどさ……
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「相変わらず?」
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おうむ返しに言った私は顔を傾ける。
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「ほら、熱くなるとさ、周りが見えなくなっちゃってるじゃん」
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八弥子さんの言う通り、奈岐はいつもそんな調子だけど……。
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「でも、それが何かあるんです?」
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「カナカナ、本気で弱ってるね……鈍くなっちゃってるよ?
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「えっ?」
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「顔に落ち込んでるって書いてあるよー?(BROKEN:8_20)
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「…………」
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思わず唖然としてしまう。
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ホントに八弥子さんは……私のことも、奈岐のことも、
よく見てくれている。
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そんなことを改めて知った気がした。
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「奈岐は……そういうところも可愛いんですよ」
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「あ、カナカナがのろけた」
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「ふふーっ、なら仕方ないなー。ガジー、今日はのろけ話を
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「えええっ!?(BROKEN:8_20)
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「おー、でも少しはあるんだー」
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元気よく八弥子さんが笑顔で身を乗り出してくる。
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「あ、あはは……」
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これは……少しぐらい話さないと、逃がしてくれない雰囲気だ。
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そんな状況に嘆息しつつも、内心では励ましてくれた八弥子さんに感謝しないといけないな、と繰り返していた。
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授業が終わり、寮の部屋に戻ってくる。
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奈岐は先に帰ってきていたのか、机でノートを広げていた。
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「鼎、戻ったか。学園はどうだった?」
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「地震の話題ばっかりだったよ。御花会のみんなは末来さんのこと
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鞄を放り出し、私は息をつきながらベッドに腰をかける。
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「そうか……こちらは穢れの痕跡があったところを
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「私達以外に戦闘を行った者がいると考えて違い無いだろう。
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「……どうして?」
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奈岐がこちらに来いと視線で呼ぶ。
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机の前に移動すると、広げてあったノートを指さされる。
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「この周辺の地図に印をつけたところが、穢れと戦闘があったと
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学園周辺から島の北側にかけて、無数の印がつけられていた。
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これを末来さんが一人でやったと考える方が難しい。
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「じゃあ……私達以外に穢れを祓った人がいるってこと?」
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「考えにくいことだが、その可能性は高いな」
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巫女の力を使える者以外が、あの穢れを祓う……?
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岩で押し潰しても死なない相手――
そもそも霊体を相手にどうやって?
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「鼎、松籟会が管理する祠へ理事長を探しに行った時のことを
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「うん、あの変な岩がある洞窟だよね?」
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「その際、私は秘書の男と交戦している」
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交戦……奈岐の短刀を掌底で砕いた男性の顔が思い浮かぶ。
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「奴は私と戦う前に、真言を唱えていた」
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「真言……?」
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「マントラともいう。呪文のようなものだ。唱えることで、
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「あの男がただの秘書でないことは確かだが……仏僧かといえば、(BROKEN:8_20)
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僧侶の人といえば、お寺で木魚を(BROKEN:8_20)
そんな印象からは遥かに遠い。
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「オン・ベイシラマンダヤ・センジキャ・ソワカ――
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「えっ、えっと?」
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上手く聞き取れない言葉に私は目を白黒させる。
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「これは毘沙門天への願をかける真言だが――
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「魔を祓うって……」
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「奴は僧侶ではない。だが、魔を祓うため、毘沙門天へ願をかける
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「その者達は霊山で厳しい修行を行い、
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「鬼を調伏したという逸話を聞いて以来、いくつかの文献を読んで
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聞き慣れない単語にまばたきを繰り返している私に対し、
奈岐は肩をすくめてみせた。
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「つまりは穢れを祓う力を持っている可能性が高いということだ」
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「でも……あの人が一人でこれを?」
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私はノートに書かれた無数の印を指さす。
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「いや、奴の他にも何人か黒服の男達がいた。
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「穢れが霊体であり、魂だけの存在であることを知っていれば、
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「…………」
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昨晩に見た血の痕も、その人達のものだったのかもしれない。
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この印にあるだけ――少なく見ても二十箇所近くのところで戦闘が行われた――地震があってすぐに?
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「まるで……地震が起きて、穢れが現れることを知ってたみたい」
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「ああ、知っていただろうな。だから事前に待(BROKEN:8_20)
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「そんなことが分かる人って……」
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奈岐は机の上に置いたあった星霊石を手に取って頷く。
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「諏訪頼継――奴ぐらいだ」
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「あの男、鬼となって……いったい何と戦っている?」
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あの人は巫女のことも地震のことも全部知っていた。
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この島で起きている現象、その全てを知っているんじゃないかとも思えてしまう。
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思い返せば、私の転入の時だって……そうだ、手を回していた。
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「…………」
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無数の点と点が線で繋がりそうになる。
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でも、あの人の目的が分からず、答えは見えないままだ。
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「いずれにしても、次の試合で巫女が決まる。
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「あの男も……島の因習について思うところがあるようだからな」
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松籟会に身を置きながら、奈岐に手を貸したこと、私を学園に転入許可させたこと――全部、この島の行く末に繋がる。
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あと少しで何かが分かる……でも、本当にそれは巫女になれば、
分かることなのだろうか?
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疑問はあるけど、そう信じて進むしか選択肢は無い気がした。
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The Rain and the Other Side of You
Hana ni Arashi
Kakegurui Yorozu
Tsubakuma!
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Honto no Kokoro
Hayate X Blade
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