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先輩を追いかけて寮の外に出ると、既に陽が沈んでいた。
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時計が無いので、門限の時間かどうかは分からないけれど、
今から外出していたら門限破りは確実だろう。
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先に出た先輩の姿を探すと、
森の入口で私を待っている様子だった。
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陽が沈んだからか、既にフードは下ろし、
吹き付ける強い風に長い髪を揺らしている。
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「先輩……さすがに、さっきのは……」
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「…………」
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私の顔を見た途端、先輩は細い眉をあからさまに顰めた。
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「お前は遠山のパフォーマンスに何故付き合う?」
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「パフォーマンスって……遠山先輩は御花会をまとめてる人
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「本当にそう見えるか?」
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先輩が大股で私に詰め寄ってくる。
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「高遠、まず遠山という女が御花会をまとめている人間である、
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「そんなものを取り払って、遠山個人を見てみろ。しがらみの中、
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「特に今年の一年生に対し、異常なまでの拘りを示している。
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早口で、意識しなければ聞き逃してしまいそうな勢いで、
先輩は畳み掛けるようにして言葉を続けている。
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息継ぎの暇があったのかすら分からないの言葉の嵐を受けて、
私はまばたきが止まらなかった。
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遠山先輩が異常な拘りを持っている……
というのは、由布相手なんだろうか?
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でも、偏愛って……。
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「先輩……もしかして怒ってます?」
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「(BROKEN:8_20)
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「……遠山先輩が嫌いなんですか?」
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眉を顰めたまま先輩が視線を私に向ける。
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色素が薄く青い瞳が私の目と合った。
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「高遠、お前は本当に真っ直ぐな奴だな……」
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「答えはノーだ。だが、回答を教えるつもりは無い」
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先輩が視線を逸らし、森へ向かってすたすたと歩き始める。
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「わっ、ちょっと待って下さいっ」
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マントを引きずる背中を慌てて追いかけていく。
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「これじゃ……怒った自分が恥ずかしくなる……」
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「えっ?」
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先輩に追いついた時、何か聞こえたような気がした。
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「高遠、何か言ったか?」
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「それ……私の台詞ですよ」
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言おうと思っていたことを言われてしまい、次の言葉に迷う。
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そうしていると、この話題はもう終わりだと言いたげに、
先輩は静かに笑っていた。
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「――さて、森に入るぞ。息を鎮めろ、気配を殺せ、いいな?」
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「は、はいっ」
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再び私を見た先輩の顔は真剣なものだった。
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そうか、これからあの穢れと戦うことになるんだ。
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遠山先輩に怒られたことを引きずっている場合じゃない。
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命に関わるような……そんな出来事がこの先に待っているんだ。
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指先が腰に下げた勾玉に自然と触れていた。
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お母さん……。
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心の中で母に呼びかけながら、私は夜の森へ入っていく。
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The Rain and the Other Side of You
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