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[Narration]
案内された部屋からは、海がながめ渡せた。
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[Narration]
ここで、とりあえず1年間、過ごすことになるんだ。
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[Narration]
窓を開けると、波の音と、鳥の声が響いてくる。
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[Narration]
……確か、3年間、海の見えない部屋で過ごしたと言っていた。期待はしていなかったけど、同じ部屋じゃないらしい。
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[Narration]
同じじゃないんだ。
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[Narration]
それなら、わたしは、ちがう3年間を過ごせるだろうか? それとも、やっぱり、似たような3年間を過ごすのだろうか?
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[Narration]
広がる海と空。水平線と、白い雲と、水面に輝く陽光だけの青い風景。
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[Girl]
きれいだな……。この景色を見なかったなんて、もったいない……。
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[Narration]
そうつぶやいてから、気づく。本当にこの風景を見なかったのかな? もしかしたら……、誰かの部屋で見たのかもしれない。
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[Narration]
誰かの……。
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[Girl]
………………。
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[Narration]
胸の奥がざわめいて、思考が止まる。
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[Narration]
追いかけてきてしまった。すれ違うことはわかっていたけど、それでも、ここで、何を見たのかが気になって。
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[Narration]
窓を閉め、まだ整理の終わっていない荷物は見ないことにして、扉を開け、廊下に出る。もう少し、船の中を見て回ろう。
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[Narration]
ここで、何を見たのかが気になったから。
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[Narration]
「……やぁ」
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[Narration]
まっすぐに視線を向けて、その人はそう言った。
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[Narration]
それは、とても、今日、初めて会ったわたしにかける声には思えなかった。
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[Narration]
「本当だ、一目でわかった」
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[Narration]
……わたしには、姉がいた。姉様が。
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[Narration]
わたしが幼い頃は、ずっとそばにいてくれた。いつでも、わたしの手をひいてくれた。
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[Narration]
だけど、遠くの学園に行った3年間は、数度の手紙をのぞいて、卒業間近のたった一度しか、帰ってきてくれなかった。
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[Narration]
姉様がその学園を卒業して家に戻り、再び家を出るまでの短い間、ぽつぽつと話してくれた、そこでの話、出来事、そして、会った人。
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[Narration]
いつも、姉様は、穏やかに笑いながら、その人の話をしてくれた。
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[Narration]
わたしが……、怒って席を立つまでの間だけ、いろんなことを、いろんなときを。
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[Narration]
聞いているわたしには、なぜ、姉様がそんなふうに笑えるのかわからない、いろんな思い出を。
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[Narration]
「懐かしい、というのも変かな。 まだひと季節もすぎていない」
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[Narration]
ねぇ、なぜ、そう言って笑えるのだろう。笑えたのだろう。
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[Narration]
「ああ、それに、なにより、 キミとは初めて会ったのに」
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[Narration]
この人は。姉様は。
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[Narration]
たぶん、わたしは、この人をにらみつけている。
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[Narration]
でも、そんなことなど、まるでおかまいなしに、いや、わたしの視線を受け止めてなお、おかしそうに笑いながら。
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[Narration]
逃げる隙も、身構える間も与えない、なんてことのない足取りで、いつの間にか、目の前へと歩み寄っていた。
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[Narration]
そして、驚くほど、間近から、その声は聞こえてきた。
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[Narration]
「ポーラースターへ、ようこそ」
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[Narration]
耳元に、近づいて、響く声。そして、頬に触れる、その唇の感触。
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[Tenkyouin Enishi/Yukari]
────────!!
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[Narration]
その頬へのかすかな圧力が、すぅっとひいて消えた直後。
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[Narration]
その一瞬の間に、顔中が熱くなる。
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[Narration]
今の行為が、何をされたのかは、わかる。
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[Narration]
何をしたのよ、この人は!
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[Narration]
打ち鳴らされる鼓動を頭の中いっぱいに感じながら、わたしは、目の前で笑う人を見つめた。
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[Narration]
そう、笑ってる。なにが!? そんなに!? 楽しくて!?
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[Anri]
ようこそ、この船へ、この場所へ。
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[Narration]
なんのためらいもなく。
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[Anri]
これからキミが3年間をすごす、学舎へ。
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[Narration]
あなたの声が響いてくる。
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[Anri]
キミもきっとここを好きになるよ。ボクらが愛してやまないこの船を。
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[Narration]
わたしの胸をかき回しながら。
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[Anri]
キミのかけがえのない3年間、ボクらは、キミが見上げて行く先を定める星になる。
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[Anri]
キミを運び、キミがこえる波になる。
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[Anri]
そのそばを飛び、時折、キミにつかまる鳥になる。
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[Anri]
そして……。
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[Anri]
ともにゆく船人になる。この船の誰もが、キミとともに。キミは、この船とともに、この船のみなとともに。
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[Anri]
さあ、始めよう、この船旅を!
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[Narration]
まだどぎまぎと、見つめるだけのわたしに向けて、あなたは小さく、口の中でつぶやいた。
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[Narration]
それは、わたしと、もう一人のだれかにへと、同時に贈られた言葉だった。
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[Narration]
「伝えたかったんだ、キミに、この言葉を」
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