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[Tenkyouin]
杏里!
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[Narration]
駆け込んできた勢いのままの声で、天京院はその名前を呼んだ。
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[Anri]
わわっ、今の声、かなえさん!?
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[Narration]
扉越しに、どたばたとした足音と声が聞こえてくる。
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[Tenkyouin]
やっぱり、君か……。
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[Narration]
的中した予想に喜ぶ素振りも見せず、天京院は白衣のポケットから、自分の部屋のカードキーを取り出す。
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[Tenkyouin]
どうやって入ったかはしらないが……。
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[Narration]
見当はつく。おそらくはメイドのイライザの手引きだろう。杏里がその気になれば、この学園の大半はフリーパスだ。それは、あの事件の時に照明されている。
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[Narration]
カードキーをリーダーに差し込む。そして、手早く暗証番号を打ち込む。しかし……。
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[Tenkyouin]
開かない!?
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[Narration]
錠がはずれる音もしなければ、ドアノブもガッチリと固定されたまま、びくとも動かない。
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[Anri]
あれ? やっぱり開かない?
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[Tenkyouin]
杏里! 何をした!?
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[Anri]
え? なに!?
>

[Tenkyouin]
何をしたと聞いてるんだ!
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[Anri]
そうなんだ、開かないんだよ。
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[Tenkyouin]
……っ!
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[Narration]
扉の厚さと防音加工の前に舌打ちして、天京院はインターホンの受話器をあげる。
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[Tenkyouin]
杏里! 聞こえているか!?
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[Anri]
わわっ!?
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[Nicolle]
杏里、こっちこっち!
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[Alma]
ああ、天京院様、今、杏里様にかわりますね。
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[Anri]
ああ、かなえさん?
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[Tenkyouin]
杏里! 何をした!?
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[Narration]
天京院は先ほどと同じ問いを投げつける。
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[Anri]
ああ、かなえさん、困ったことになってるんだよ。
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[Tenkyouin]
扉が開かない!
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[Anri]
そうなんだ!
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[Tenkyouin]
だから、何をしたと聞いてるんだ!
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[Anri]
何をしたと言われても……。ちょっとここにあるパネルをいじってたら、急にドアが開かなくなってしまって……。
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[Tenkyouin]
最上位の強制ロックをかけたな……。
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[Anri]
ねぇ、これどうやって開けるの?
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[Tenkyouin]
知るか。あたしが聞きたいくらいだ。
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[Anri]
ええ!? だってこの鍵、かなえさんが作ったんじゃないの!?
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[Tenkyouin]
ああそうだ! ただ、シャレでどんな鍵も受け付けない、強制ロックの機能をつけておいたんだ。
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[Anri]
なんでそんなものを!
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[Tenkyouin]
……つけられたからだ。
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[Anri]
ああ、そう……。で、開ける方法はないの?
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[Tenkyouin]
解除コードを設定しておいたはずなんだが……。
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[Anri]
教えてよ!
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[Tenkyouin]
……忘れた。
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[Anri]
………………。
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[Tenkyouin]
君にあきれる資格はないぞ、杏里!
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[Anri]
で、どうするの、この鍵。
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[Tenkyouin]
制御はコンピューターでやっているが、錠前自体は、特別すぎるものじゃない。
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[Tenkyouin]
ツールさえ作ってしまえば……。
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[Anri]
ん? どうしたの? かなえさん。
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[Tenkyouin]
道具もミキサーも部屋の中か……。
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[Anri]
そうだねぇ……。
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[Tenkyouin]
そんなことより!
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[Narration]
一度、鍵のことは頭から振り払って、天京院は受話器へと、その先の杏里へと向き直った。
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[Tenkyouin]
どういうつもりだ、杏里。勝手に人の部屋に入るなんて。
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[Anri]
………………。
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[Narration]
すぐに、杏里の答えは返ってこなかった。
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[Narration]
杏里の方も気づいていた。天京院が、つい昨日、話をした彼女に戻ったことを。
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[Anri]
ごめんよ、かなえさん。
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[Tenkyouin]
なんについて謝っている?
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[Anri]
まずは、勝手に部屋に入ったこと。
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[Tenkyouin]
イライザ・ランカスターだな。
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[Anri]
イライザは悪くないよ。えっと、その、ボクが脅したんだ。かなえさんの部屋に入れてくれなきゃ、キミの恥ずかしい秘密をばらすぞって。
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[Tenkyouin]
そんな言い訳が通用するか。
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[Anri]
……ごめん。でも、こうでもしないと、かなえさん、会ってくれないと思ったんだ。
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[Tenkyouin]
何を、馬鹿な……。
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[Anri]
そう思ったんだ。
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[Narration]
見抜かれている。いや、杏里の直感だろう。それは正しいと、天京院は思った。
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[Anri]
だから、話をするためには、かなえさんの部屋で待っているのがいちばんいいと考えたんだ。
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[Tenkyouin]
誰の入れ知恵だ?
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[Anri]
アンシャーリー。
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[Tenkyouin]
……意外だな。
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[Anri]
とにかく、ちゃんと話ができてよかったよ。
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[Tenkyouin]
ちゃんとか? この状況が? キミはあたしの部屋の中で、あたしは部屋にすら入れないのに?
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[Anri]
あ、そっか、ごめん、鍵を壊したのも謝らなきゃ。
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[Tenkyouin]
もういい、そんなことは。
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[Narration]
しごく、時間を無駄に使っている気がする。早く、この時間をすませてしまいたい。鍵のことはどうにでもなる。
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[Tenkyouin]
それで? 話ってのはなんだ?
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[Anri]
うん……。
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[Narration]
杏里の言葉が途切れる。低く、息を吸う音が聞こえる。そのかすかな音が、天京院の胸にさざ波をたてる。
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[Anri]
仲直りをしたいんだ。
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[Tenkyouin]
………………。
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[Anri]
ごめんよ、かなえさん。本当に謝りたかったことは、かなえさんに向かって、馬鹿って言ってしまったことなんだ。
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[Anri]
いくらなんでも、ボクがかなえさんに馬鹿と言うのはあんまりだよね。心から反省し、誠心誠意をもって、お詫びするよ。
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[Anri]
そして……。
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[Anri]
ぼくのこの過ちを、暴言を、かなえさんが許してくれたのなら、もう一度、かなえさんと話をしたいんだ。
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[Anri]
この船を降りる理由、気持ち? その後の連絡先も聞いてない。ううん、それだけじゃない。もっといろんなことを話したい。
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[Anri]
かなえさんが、この船の学生でいられる、あとわずかの時間の中に、できる限りたくさん、思い出、記憶、記念になるものを残しておきたいんだ。
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[Anri]
この学園で、ボクの最高の友人である、かなえさんのために。
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[Tenkyouin]
杏里!
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[Narration]
途中から、受話器を持つ手が震えていた。そのため、思わず出てしまった声は、さほど大きくは、杏里には伝わらなかったようだ。
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[Anri]
なんだい?
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[Narration]
素直な声が返ってくる。だめだ、どうしても、心の中に立つ波が消えない、ひかない。
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[Tenkyouin]
君が……。
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[Tenkyouin]
あたしに向かって馬鹿と言ったことなら……、それは、気にしなくていい。
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[Anri]
許してくれるの!?
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[Tenkyouin]
許すもなにも……、あたしは気にしていない。
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[Anri]
……ああ、よかった。ほっとしたよ。
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[Tenkyouin]
杏里が、何を言ったところで、気にしたりはしない。
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[Anri]
……え? ……かなえさん?
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[Tenkyouin]
そして、もう、杏里と話すことも特にないよ。
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[Anri]
かな……。
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[Tenkyouin]
君と話すことも、たぶん、これで最後だろう。
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[Anri]
ちょ、ちょっと! 何を言ってるの?かなえさん!
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[Tenkyouin]
あたしはもう、この学園を卒業したんだ。正規の課程を修了している。
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[Tenkyouin]
杏里。
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[Tenkyouin]
あたしは、この学園に、カリキュラムの履修と、自分の研究のための理論構築とその実践、及び、それに必要な知識と技術を習得するために入学した。
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[Tenkyouin]
3年という期間において、あたしは、自分の中で決めた学習と研究の目標を十分に達成できた。だから、新しい研究の場を求めて、この船を降りる。
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[Tenkyouin]
杏里。君は、あたしのその3年のうちの2年の間だけ……。
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[Tenkyouin]
同じ場所にいた人間にすぎない。
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[Tenkyouin]
あたしは、学生として自分で許容できる最低限の社交性の中で、君やそれ以外の人間と交友関係を持ったと思う。
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[Tenkyouin]
でもね……。
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[Tenkyouin]
それは、あたしがこの学園にいる理由には含まれていないものだ。
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[Tenkyouin]
もう、この船を離れることを決めたあたしには……。
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[Tenkyouin]
必要ない、ものなんだ。
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[Tenkyouin]
杏里、あたしには、この学園での研究と学習以外のものはすべて。
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[Tenkyouin]
意味のない、ものだった。君を、含めて。
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[Narration]
言葉をそう区切った天京院は、耳に当てたスピーカーにおそるおそる、神経を集中させる。しかし、数秒ほど待った後も、受話器は沈黙をたもったままだった。
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[Tenkyouin]
………………。
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[Narration]
無言のまま、天京院が受話器を戻そうとした、その時。
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[Anri]
かなえさん。
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[Tenkyouin]
……!
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[Narration]
思わず、息をのんだ。受話器を動かそうとした手が、止まる。耳に飛び込んできたそれは、天京院が初めて聞く杏里の声だった。
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[Narration]
硬質で、透き通った、まるで、水晶のような声。
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[Anri]
しばらく、この部屋にいさせてもらうね。
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[Narration]
それは、たぶん、いつも通りの杏里の口調だったにちがいない。ただ、声だけが違う。
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[Tenkyouin]
……出られないのだろう? なんとかするよ。すぐに鍵をはずして……。
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[Anri]
いいよ、そんなことをしなくても。こう言ったんだ。ボクは、ここから出ていかない。
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[Tenkyouin]
なに!?
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[Anri]
うん、他のみんなも同じ意見だ。
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[Tenkyouin]
……め、迷惑だ。あたしには、荷物の整理だってあるんだ。大勢で部屋の中にいられたら……。
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[Anri]
そして、かなえさんも入れてあげない。
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[Tenkyouin]
なんだって!?
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[Tenkyouin]
勝手なことを言うな! あたしの荷物は全部、その部屋の中にあるんだぞ!?
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[Anri]
かなえさん、もし、ボク達にこの部屋から出てきてほしかったら……。
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[Narration]
インターホン越しに、杏里が一度、息をのむ気配が、天京院にも伝わってくる。それは、扉越しに伝わってきたのかもしれない。それほど、間近に感じられた。
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[Anri]
船から降りるのを取りやめてほしい。この船に残ること、それが、ボクからの条件だよ。
>

[Tenkyouin]
なっ────。
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[Narration]
絶句がしばらくのあいだ、続いた後、天京院の声が廊下中に響いた。
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[Tenkyouin]
何を馬鹿なことを言ってるんだっ!!
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