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 新たに広場に現れた人影を見て、クローエがぎょっとした。
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「お話し中、悪いんだけどさあ……」
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 頭から真っ赤な返り血を浴びた学園長が、自前の長ドスを肩にのせ立っていた。
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「なんでも本当のボスは、あんただってなあ、ボニー。キャリコ・ジャックとかいうヤツが、泣きながら口走ってたぜ……」
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 ばっと、ボニーはその場から飛びすさり、ブーツの先でサーベルをはねあげた。
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 腰だめに長ドスを構えると、けーこ学園長は、嬉々とした笑い声をあげて、相手に突っ込んでいく。
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 先ほどの、杏里たちとはまるで比べものにならない血戦。加える一撃一撃に、凄絶なまでの重みがあった。
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 かろうじて、けーこの凶刃を受けとめながら、ボニーは叫んだ。
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「リードォォ、来いッッ! あたしの船へッ! いや───オレとオマエの、二人の船だ!」
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「…………ッ……」
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 リードは歯をくいしばり、うつむいたままだ。
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「思い出せ! 何のために、オマエは海に出たんだ、リード! 女だからって、力が弱いからって、バカにされるためじゃないはずだ!」
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 刃と刃が打ち合わさり、ぎりぎりと互いの力を振りしぼる鍔ぜりあいとなる。
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「リードッ! オマエが海に出たのは、毎日かわりばえしない、退屈な人生を送るためじゃないはずだ! 冒険が欲しかったからじゃないのか!」
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 苦悩の色を濃くするリードの横に、よろよろとクローエが立ち、静かに告げた。
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「誰にも強制されることなんてない……自分自身の心で決めるのよ……」
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 やがて、リードはゆっくりと顔をあげた。
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「ボクは……そうだ……ボクが欲しかったのは……一生、狭っ苦しい台所に閉じこめられることなんかじゃないんだ!」
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 ざっと、リードが振り向いた。
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「アイーシャ……ごめん!」
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 その顔は、もはやおびえ震える少女のものではなく、悲痛ながらも、強い決心に満ちていた。
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「えっ……あっ、リード!」
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 アイーシャの手からピストルを奪い取ると、少女はボニーの元へと駆け寄った。
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「ボニー! あなたの背中は、ボクが預かる!」
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 リードの手の中で、けーこの眉間めがけ、ピストルが構えられた。
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「ふっ……」
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 それでも、ぐっと足を踏み出したけーこの長ドスが、ボニーの一閃でなぎ払われた。
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 キンッ!
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 ドスの刃が折れ、のほほんと観戦していた杏里の目前にさくっと落ちる。
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「わっ」
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 そこへ、遅ればせながら捕獲ネットを構えた増援のPSが駆けつけてきた。
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「こっちだよ!」
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 リードは、ボニーの手をとって、駆けだした。
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 学園長の叱咤が飛び、PSが二人に追いすがる。
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 しかし二人は、息のあった見事なタッグで追跡をかわし、ボニーが殴り、リードが足をひっかけ、海の見えるデッキまでたどり着いた。
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 PSが取り囲むなか、息を切らせてアイーシャたちが追いついた。
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 水平線はうっすらと明るくなり、朝を迎えようとしている。
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「リードッ!」
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 胸の裂けるようなアイーシャの叫びに、リードがゆっくりと振り向いた。
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 強い海風に、アイーシャが何度も梳きけずって整えたリードの長い髪が、大きくひるがえる。
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「ごめん……アイーシャ、本当にありがとう。でも……」
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 リードは、ボニーに背をあずけるようにして、その腕をしっかりと握った。ボニーが、にやりと微笑む。
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「ボクはもう、海賊なんだ。アイーシャ」
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「リード…………」
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 少女の黄金の髪と、ボニーの黒い髪がまじりあい、旗となってたなびいた。
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「アンシャーリーも、ありがとう」
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「バイバイ、リード。元気を大切にね?」
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 二人はさっとデッキの柵に飛び乗った。
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 取り巻いていたPSが、走り寄る。
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「久々にいい喧嘩だった。またやろうぜ」
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 ボニーは、けーこに向かってウインクする。
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 そして、次の瞬間、二人しっかりと抱き合いながら、遙か下方の大海原に向かって飛び降りていた。
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 海面に水柱があがるのと、日の出の光が差すのは同時だった。
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 そこに映り込んでいた海賊船たちは、次々と薄れ、消えていく。
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「あれ! 見てよ!」
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 杏里が、最後に消えようとしていた影を指さす。
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 それは、ポーラースター自身の舟影と重なるように映る、あの杏里の語った三本マストのフリゲート艦だった。
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 その舷側には見慣れたつづりの文字が、粛然と並んでいた。
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     POLAR STAR
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「初代……ポーラー……スター……号……」
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 自分の肩を押さえながら、クローエは目に涙すら浮かべてつぶやいた。
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 悠然と、鯨が泳ぎ去るように、巨大な舟影は海の底へと、静かに消えていった。
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List of all oneshots
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(Recent Oneshots)

Isn't It Fine To XX Freely
That Red on Me
First Love Mint Blue
Summer Fuse
Girl Who Can't Say No (Daga Kotowaru)
Cubic Starship
Anaerobic Love
Missing Rink Side:Shuri
Missing Rink Side:Rina
Heart Pendant

(Recent Series)

The Rain and the Other Side of You
Hana ni Arashi
Kakegurui Yorozu
Tsubakuma!
Someday, We'll Get There
Honto no Kokoro
Hayate X Blade
Motto Hanjuku Joshi
Yuunagi Marbled
Strange Babies