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[Sylvie]
思うに、イライザさま……え〜、その、さんが、妙に余裕のあるのは、あの杏里という女のせいだと思うのよ。
>

[Crimea]
私もぉ、そう思いますぅ!
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[Narration]
廊下のはしで、こそこそと会話しているのはシルビィとクリミア。
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[Narration]
かつてイライザの取り巻きであった少女たちである。
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[Sylvie]
杏里という女、なんでも例の事件の犯人だというじゃない?
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[Sylvie]
しかも、表向きは謹慎ということになってるけど、好きなようにうろちょろしてるそうだわ。
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[Crimea]
きっとぉ、親がすごく偉い人なんですよぉ!それで特別扱いなんだわぁ!
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[Narration]
親の威光が力を持つことは、この閉鎖的な学園内でも珍しくない。
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[Narration]
ふたりは杏里もそういうものだと考えていた。
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[Narration]
まさか、彼女本人に力を貸す人間がたくさんいるなど、想像もしていない。
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[Sylvie]
昔はイライザさま──さんに、苛められていたくせに!
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[Crimea]
そうですわぁ!あんな言葉遣いも下品な女、どうしてイライザさ……さんはぁ、気になさるのかしらぁ?
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[Eliza]
どなたが下品なのでしょうか?
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[Narration]
いつもの営業スマイルのまま現れたイライザに、ふたりは抱き合ったまま跳び上がった。
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[Sylvie]
イ、イライザ様、いつからそこに!?
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[Eliza]
たったいまですけれど。──シルビィ様、わたしと杏里様の噂をしておいでですね?
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[Narration]
ずばりと訊かれてシルビィは硬直した。クリミアもあたふたと無闇にあわてる。
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[Eliza]
……このようなことを、あまり申したくありませんが……。
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[Narration]
イライザは、ちょっと眉をひそめた。
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[Eliza]
いま、杏里様は忙しい身です。できれば、邪魔をしないであげてくださいな。
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[Sylvie]
それって……。
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[Crimea]
イライザ様ぁ、やっぱりぃ、あの女となにかあったんですねぇ?
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[Narration]
ふたりとも、いつの間にかイライザに「様」がついていたが、それさえ気がついていないようだった。
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[Narration]
不審の眼差しが、じっとイライザに注がれる。
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[Sylvie]
ひょっとしてイライザ様……あの杏里と、一夜をともに……。
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[Eliza]
(あらやだ……そんな事を気にしてたの? なんと答えたものかしら……)
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[Eliza]
(……無用な誤解は、逆に避けた方が いいかもしれないわね……)
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[Narration]
頭の中でさっと思案して、イライザはできるだけ平静につとめたまま、それを肯定することにした。
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[Eliza]
ええ、そうよ。でも──。
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[Sylvie]
やっぱり!
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[Narration]
イライザに最後まで言わせず、シルビィが悲鳴のような叫びをあげた。
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[Narration]
クリミアも、青い顔をして首を振っている。
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[Eliza]
あの、ちょっと……。
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[Narration]
結局、それ以上の弁明も聞かず、ふたりは走り去ってしまった。
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[Narration]
ぽかん……としたイライザだけが残される。
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[Eliza]
……やっぱり、一度あのふたりとは話をしておいた方がいいかしら……。
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[Anri]
イライザとボクがどうしたって?
>

[Narration]
いきなり顔を出した杏里に、ふたりは跳び上がって驚いた。
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[Sylvie]
あ、あ、あ、杏里!?驚かさないでちょうだい!
>

[Crimea]
そ、そうですわぁ! だいたい、あなた謹慎中でしょう!?
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[Narration]
杏里は気にした様子もなく笑いかけてきた。
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[Anri]
やだなぁシルビィ、クラスメートじゃないか。えっと……。
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[Narration]
と、クリミアを見て、笑顔のまま、またシルビィの方を向く。
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[Anri]
こっちは、誰だっけ?
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[Crimea]
──ま、まあ!私もクラスメートでしょう!
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[Anri]
あ……そうだっけ?
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[Narration]
クリミアは、実はイライザやシルビィよりも、そして杏里よりも、誕生日が早かった。
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[Narration]
つまり杏里から見れば年上であり──たとえクラスメートでも、眼中にない相手だったのである。
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[Anri]
ところで、ボクの話をしていたようだけど……?
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[Sylvie]
な、なんでもありませんわよっ?
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[Crimea]
そ、そうそう!
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[Anri]
……?
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[Sylvie]
……ただ、その……イライザさ……さんと、ずいぶん仲がよろしいようだと思っただけですわ。
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[Anri]
ボクとイライザは、固い愛の絆で結ばれているからね!
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[Crimea]
な、なんですってぇ!?
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[Narration]
シルビィらの頬が、怒りと妄想に紅潮した。
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[Sylvie]
ま、まさかそれは、ははは、破廉恥な行いのことを、言ってるのじゃ、ありますまいね!?
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[Anri]
破廉恥……ふむ、時に愛の営みは美しいだけでなく、危うく、淫らに、退廃的ですらあろうさ──。
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[Crimea]
じゃ、じゃあやっぱり……。
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[Narration]
ふたりは杏里の、女性としてはすらりと高い全身を、細くたおやかな指を、引きしまった唇を見た。
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[Narration]
杏里がふっ、と笑う。こうした時の彼女は──本人はまったく無意識なのだが──えらく中性的で、その気のない女性でも引き込まれそうな色気があった。
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[Sylvie]
わ、私、用事を思い出しましたっ!
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[Crimea]
えっ!? あ、いえぇ、私もぉ!
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[Narration]
杏里の妖しい笑みに捕らわれそうになったふたりは、あわてて逃げて行った。
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[Narration]
きょとん、と事情を理解できない杏里だけが取り残される。
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[Eliza]
──杏里様、あのふたりが何かしましたか?
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[Anri]
あぁ、イライザ。何でもない、ボクとイライザの仲がいいんで、嫉妬しているみたいだ。
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[Eliza]
まぁ!
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[Narration]
イライザはふたりの逃げていった方を見て嘆息した。
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[Eliza]
杏里様……もしあのふたりがなにかお邪魔をするようでしたら、わたしにおっしゃってくださいな。
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[Eliza]
おそらく、わたしがきちんと話せば……何も言わなくなりますわ。
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[Anri]
うん……いや、その必要はないと思うよ。
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[Narration]
相変わらず、確たる根拠もなく杏里は言い切った。
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[Eliza]
なら、いいのですけれど……。
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[Narration]
いつものように情報収集の結果を聞いて、杏里は去っていった。
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[Narration]
それを見送ってから、イライザは考え込む。
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[Eliza]
やっぱり……あのふたりにも、言っておいた方がいいかしら?
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