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[Nicolle]
よぉ、杏里! こっちだこっち!
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[Collone]
オンオン!
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[Narration]
海の見えるカフェテリアのテーブルの一つに、ニコルが手を、コローネが尾を振って杏里を迎える。
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[Anri]
……やあ、ニコル、コローネ。
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[Narration]
二人に軽く手をあげて応え、杏里は席につく。離れたカウンターにいるマスターに大声で注文を告げる。
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[Anri]
エスプレッソ。
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[Narration]
やがて、テーブルにエスプレッソのカップが運ばれてくる。
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[Narration]
午前の授業がある時間帯。当然、カフェテリアはガラガラで、店主も開店休業状態に店の奥へと引っ込んでしまった。
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[Anri]
……で、なんだい、ニコル。なにやら、いいものが手に入ったって言ってたけど。
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[Nicolle]
へへ、これこれ。
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[Narration]
ニコルは笑いながら、テーブルの上に無造作に油紙に包まれた棒状のものを放り出す。長さは五十センチを軽くこえる。
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[Anri]
……なんだい、これ。
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[Narration]
杏里は油紙を丁寧にはがす。その下のものはもう一重、透明なビニール袋に包まれていた。
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[Anri]
……ニコル、これは!
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[Nicolle]
見ての通りさ。
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[Narration]
それは、ディルドゥだった。男性器を象った黒く光沢を帯びた硬質の棒。しかも、男性器の先端は、両はしにそれぞれ作られていた。
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[Narration]
いわゆる、ハードレズ用の双頭のディルドゥだった。
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[Anri]
ニコル、これ、もしかして……。
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[Nicolle]
ビンゴ! レイプ事件で使われてきた凶器さ。
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[Anri]
こんなもの、いったいどうやって……。
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[Narration]
この禍々しい物体を、杏里は一度だけ見たことがあった。
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[Narration]
アイーシャが襲われた夜、力無く倒れた彼女の足下に転がっていた。
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[Narration]
犯人を追おうと、すぐに部屋を飛び出した杏里が戻ってきた時には、もうすでになくなっていた。PSが持ち去ったものだと思っていた。
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[Nicolle]
たぶん、PSの誰かが流したんだろうね。そう、賭場絡みの場所で手に入れたのさ。まきあげたって言う方が正しいかもね。
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[Anri]
驚いたな……。
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[Nicolle]
だろ? そこでだ、杏里、こいつにいくら出す?
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[Anri]
なんだって!?
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[Nicolle]
え、なんだい、いいだろ、このくらい。あたしだって、杏里の力になりたいし、退屈したくないからあんたに退学してほしくない。
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[Nicolle]
でもさ、これを手に入れるためには、ちょっとしたリスクを負ったんだぜ。それなりの報酬はもらってもいいよな。
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[Anri]
……わかったよ。いくらだい?言い値を聞くよ。
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[Narration]
ため息をつく杏里と対照的に、ニコルの顔は輝き出す。
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[Nicolle]
そうこなくちゃ。じゃ、5000ニコルってとこだね。
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[Anri]
……わかった。
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[Nicolle]
おいおい、ビタ一文まからないからなって、ええ!?
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[Nicolle]
どうしたんだい、杏里! あんたが値切ってこないなんて!
>

[Narration]
ニコルは立ち上がって杏里の顔をのぞき込む。
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[Nicolle]
……杏里、どうした? 何かあった?
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[Anri]
……ううん、別に。
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[Narration]
杏里は立ち上がると、ディルドゥを油紙ごとつかみあげた。
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[Nicolle]
あ、おい!
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[Narration]
ニコルが声をあげて止める暇もないほど、一瞬の動きで、杏里はそれを海へと力一杯放り投げていた。
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[Nicolle]
なに考えてんだ、杏里! 大事な手がかりを海に捨てちまうなんて!
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[Anri]
ごめん、ニコル。せっかく手に入れてくれたのに……。
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[Nicolle]
そうじゃないだろ! どうしたってんだよ、杏里!
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[Anri]
ごめん、あんなもの、見たくなかったんだ……。
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[Narration]
そう言うと、杏里はそのままカフェテラスを出ていく。
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[Narration]
後に残されたニコルは、コローネと一緒にその背中を黙って見送るしかなかった。
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[Nicolle]
よぉ、杏里! こっちだこっち!
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[Collone]
オンオン!
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[Narration]
海の見えるカフェテリアのテーブルの一つに、ニコルが手を、コローネが尾を振って杏里を迎える。
>

[Anri]
やあ、ニコル、コローネ。
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[Narration]
二人に軽く手をあげて応え、杏里は席につく。離れたカウンターにいるマスターに大声で注文を告げる。
>

[Anri]
エスプレッソ! あと、こちらの美しいお嬢さんにビーフジャーキーを山盛り。
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[Nicolle]
おいコラ、それはコローネへの注文じゃないか!
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[Anri]
あはは! 遠慮しないでいいよ、ボクのおごりだ。
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[Collone]
オンオン!
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[Nicolle]
ちぇ、こいつも調子がいいったら!
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[Narration]
やがて、テーブルにエスプレッソのカップとビーフジャーキーの皿が運ばれてくる。
>

[Narration]
午前の授業がある時間帯。当然、カフェテリアはガラガラで、店主も開店休業状態に店の奥へと引っ込んでしまった。
>

[Anri]
で、なんだい、ニコル。なにやら、いいものが手に入ったってことだけど。
>

[Nicolle]
へへ、これこれ。
>

[Narration]
ニコルは笑いながら、テーブルの上に無造作に油紙に包まれた棒状のものを放り出す。長さは五十センチを軽くこえる。
>

[Anri]
なんだい、これ。
>

[Narration]
杏里は油紙を丁寧にはがす。その下のものはもう一重、透明なビニール袋に包まれていた。
>

[Anri]
……ニコル、これは!
>

[Nicolle]
見ての通りさ。
>

[Narration]
それは、ディルドゥだった。男性器を象った黒く光沢を帯びた硬質の棒。しかも、男性器の先端は、両はしにそれぞれ作られていた。
>

[Narration]
いわゆる、ハードレズ用の双頭のディルドゥだった。
>

[Anri]
ニコル、これ、もしかして……。
>

[Nicolle]
ビンゴ! レイプ事件で使われてきた凶器さ。
>

[Anri]
こんなもの、いったいどうやって……。
>

[Narration]
この禍々しい物体を、杏里は一度だけ見たことがあった。
>

[Narration]
アイーシャが襲われた夜、力無く倒れた彼女の足下に転がっていた。
>

[Narration]
犯人を追おうと、すぐに部屋を飛び出した杏里が戻ってきた時には、もうすでになくなっていた。PSが持ち去ったものだと思っていた。
>

[Nicolle]
たぶん、PSの誰かが流したんだろうね。そう、賭場絡みの場所で手に入れたのさ。まきあげたって言う方が正しいかもね。
>

[Anri]
驚いたな……。しかし、これはすごい手がかりだよ、ニコル。
>

[Nicolle]
だろ? そこでだ、杏里、こいつにいくら出す?
>

[Anri]
なんだって!?
>

[Nicolle]
おいおい、そんな意外な顔しないでくれ。
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[Nicolle]
それから、そんな恨みがましい顔も。
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[Nicolle]
あたしだって、杏里の力になりたいし、退屈したくないからあんたに退学してほしくない。
>

[Nicolle]
でもさ、これを手に入れるためには、ちょっとしたリスクを負ったんだぜ。それなりの報酬はもらってもいいよな。
>

[Anri]
……わかったよ。いくらだい? 言い値を聞くよ。
>

[Narration]
ため息をつく杏里と対照的に、ニコルの顔は輝き出す。
>

[Nicolle]
そうこなくちゃ。じゃ、5000ニコルってとこだね。
>

[Anri]
高い! 1000ニコル!
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[Nicolle]
じょーだんじゃない! 4500ニコルだね。
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[Anri]
暴利だよ、ニコル。1500だ。
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[Nicolle]
おいおい、首をくくらせる気かよ! 4200。これ以上はまからないね!
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[Anri]
1800! ああ、すごい譲歩だ!
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[Nicolle]
4100!
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[Anri]
1850!
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[Nicolle]
4008!
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[Anri]
1994!
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[Nicolle]
はぁはぁ……、じゃあ、2613ニコルと、指相撲三回ということだね……。
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[Anri]
ぜぇぜぇ……、いいだろう。交渉成立だね。
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[Narration]
二人は同時にテーブルの上に突っ伏した。交渉合戦に全勢力を傾けた結果だった。
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