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[Anri]
本日の先生は、クローエ・ウィザースプーンさんです!
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[Chloe]
杏里・アンリエット! ここでは静かにして!
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[Narration]
大図書室に入るなり、紹介コールを飛ばした杏里に、クローエがカウンターの向こうから厳しい声を飛ばす。
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[Aisha]
あ、ごめんなさい……。
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[Chloe]
あなたが謝ることじゃないわ。うるさいのは杏里よ。
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[Nicolle]
そうそう。今のは杏里とクローエのあいだの挨拶みたいなもんさ、気にしなさんな。
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[Anri]
あれ? なんでニコルがいるのさ。
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[Nicolle]
杏里がなにやらまた面白いこと始めたって聞いてね。ぜひとも見物させてもらおうと思ってさ。ま、邪魔はしないからさ。
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[Anri]
まあ、いいけど。やあ、コローネ、キミの美しい毛並みは今日も輝かんばかりだね。
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[Collone]
オン!
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[Chloe]
ここは、ペットの連れ込みは禁止よ。
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[Nicolle]
し・ず・か・に、させておくさ。それで問題ないだろ。
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[Chloe]
……ないわね。
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[Aisha]
あの、今日は何をするんですか?
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[Anri]
えーとね。
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[Narration]
杏里は大図書室の中を見回す。午前中の大図書室、しかも授業時間帯では、利用する人影もまばらだ。
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[Anri]
……読書?
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[Chloe]
別にかまわないけど、その子、杏里の何十倍もここで本を借りていってるわよ。
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[Anri]
え、そうだったんだ!?アイーシャって何十冊も本を読んでるの?
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[Narration]
杏里はアイーシャを振り返る。
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[Aisha]
はい、本を読むのは好きだから……。
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[Nicolle]
杏里、あんた、今まで一冊しか本を借りたことなかったのか。
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[Anri]
だって、ボクのカードってクローエに蹴り割られてから、再発行してもらえないんだもの。
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[Chloe]
騒々しい人間を閉め出すにはそれがいちばんよ!
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[Nicolle]
……始まったか。ま、すぐケリがつくだろうけどね。その間、ぼーっとしてるのもマヌケだよな。一勝負いくかい?
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[Aisha]
え? 勝負って……?
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[Nicolle]
なんだっていいよ。ブラックジャックやポーカー、カードじゃなくたっていいぜ。ダイスにするかい?
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[Anri]
思い出した。クローエってば、ボクの代本板まで割っちゃったんだよね。
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[Chloe]
神の鉄槌よ!
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[Aisha]
あの、もしかして、賭博……。
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[Nicolle]
そんな怯えた顔しなさんな。いくらあたしでも、ビギナーから早々無体にむしったりしないよ。ま、これも人生に必要な勉強……。
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[Anri]
……ひょっとして、ボクが借りた本をちょっと汚して返したことも関係あるのかな?汚したのは実際ヘレナなんだけどさ。
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[Chloe]
知ったことじゃないわよ、本の汚れなんて!
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[Nicolle]
二人ともうるさーい。
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[Narration]
ニコルの一声で、クローエは唇を噛んで押し黙る。杏里も口を閉ざして肩をすくめる。
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[Nicolle]
やれやれ、好きで騒いでる人間に、よくも毎度毎度、怒鳴りに散らせるものだね。世俗の雑音と割り切って聞き流しちゃいなよ。
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[Chloe]
その雑音が許せないのよ!
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[Nicolle]
杏里もまぁ、懲りないもんだね。何度、蹴り倒されてるのさ。
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[Aisha]
え、蹴り……?
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[Nicolle]
ああ。
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[Narration]
アイーシャの反応を見て、ニコルは意地悪そうに笑う。そして、あごでクローエを一度、指し示す。
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[Nicolle]
そこのクローエ姐さんはテコンドーの達人なのさ。
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[Aisha]
テコンドー……。
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[Nicolle]
そう。そして、この大図書室の静寂を破る者には、容赦なくその足技を披露してくれるというわけ。
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[Nicolle]
あそこにいる杏里が、もっぱらその機会を独占してるんだけどね。
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[Anri]
あまりの素晴らしさに、よく記憶から抜け落ちるんだけどね。
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[Chloe]
ふん。
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[Narration]
クローエはつまらなそうに顔を背ける。
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[Aisha]
ふふ……、ふふふ……。
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[Narration]
口元に手を当てて、アイーシャは笑う。
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[Aisha]
杏里のお友達って、面白い人が多いんですね。
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[Chloe]
面白くないわよ。
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[Nicolle]
あはは、いいこというね、アイーシャ!
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[Nicolle]
まったく、お友達って紹介されてるのか、あたし達は! まあいいさ、借金のカタなんて紹介されたらみっともないもんな。
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[Aisha]
あ、あの私……、笑ったりして……。
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[Nicolle]
おっと、そこで沈みなさんな、アイーシャ。あんたももう少したてば、めでたく『お友達』になれるぜ。
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[Aisha]
え、あの……。
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[Nicolle]
まあ、そのうちわかるさ。第一、アイーシャ、あたしや杏里に敬語なんて使う必要ないよ。面倒なだけさ。
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[Aisha]
あの、でも……、杏里は年上だし……。
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[Anri]
当たり前だよ。キミの年上じゃなきゃ、ボクは絶望で死んでしまう!
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[Nicolle]
いや、そうじゃなくて。
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[Anri]
年下のボクの友達で、敬語使ってくれる子なんていないよ。イライザは、まあ、職業上って感じだけどさ。
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[Aisha]
でも……。
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[Anri]
親しい友達に話しかけるように、ボクに言葉をおくれ。そうすれば、ボクとキミはもっとずっと近くにいることができるよ。
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[Aisha]
杏里……。
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[Anri]
ね、さあ。
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[Aisha]
急には……、無理……です。
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[Narration]
その返事には戸惑いの他に、微笑が混じっていた。少しづつときほぐれていく言葉、心。
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[Aisha]
でも、ちょっと……頑張って……みるわ。
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[Anri]
うん!
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[Nicolle]
見事な手管だこと。
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[Chloe]
……背筋を伸ばしてみることね。
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[Narration]
杏里との言い争いの時に床に投げた本を拾い上げながらクローエは言う。
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[Chloe]
でないと、ちゃんとした蹴りは放てないわ。テコンドーがやりたいなら、教えてあげるわ。ただし、ここでなく道場で。
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[Nicolle]
おやおや、殺されるぜ、アイーシャ。
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[Narration]
そう言ったニコルをクローエは睨みすえる。首をすくめてみせるニコル。
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[Chloe]
道場も、ちょっと寂しくなってたところだしね。
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[Nicolle]
……ソヨンか。
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[Narration]
杏里、ニコル、クローエの三人が押し黙る。
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[Aisha]
………………。
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[Nicolle]
ああ、知ってるだろ。ファン・ソヨン。ちょっとね、ここのところの事件にひっかかっちまって。
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[Nicolle]
元気のいいのがいてね。ファン・ソヨンって言うんだけど。ちょっとね、ここのところの事件にひっかかっちまって。
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[Aisha]
そう……。
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[Nicolle]
で、そこにいるのが、その容疑者。
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[Anri]
こらー!
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[Narration]
指で示されてのニコルの言葉に、杏里は間髪入れず反駁する。
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[Anri]
あんなかわいい子を暴力で襲ったなんてとんでもない! そんな容疑をかけられるなんて、まったくもって冗談じゃない!
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[Anri]
見てろ、真犯人! 一刻も早く見つけて出してやるぞ。この償いをさせてやる!
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[Nicolle]
だったらこんなとこで油売ってないで、手がかり探しに行くんだね。
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[Anri]
そこはそれ!
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[Nicolle]
どれだ!
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[Aisha]
あ、あの……。
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[Chloe]
うるさい!
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[Narration]
カウンターを本で叩きつけて、クローエが叫ぶ。
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[Chloe]
ここでうるさくしないでくださいって言ってるでしょ! 今日はもう閉館よ、さっさと出ていってくれませんか!
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[Nicolle]
おいおい、まだ午前中……。
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[Chloe]
何か! これ以降はわたしの貸し切りなんです!
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[Nicolle]
……逆らわない方がよさそうだね。
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[Anri]
そうだね、退散しよう。行こう、アイーシャ。
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[Aisha]
はい……。
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