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[Narration]
トントンと、包丁がまな板を叩く軽快な音が響く。コトコトと鍋の蓋が踊る音も同時に。時折、パタパタと板敷きの台所を走るまだ初々しい新妻の足音。
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[Anri]
ああ、これぞ、日本の伝統……。
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[Anri]
わび〜さび〜わさび〜。
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[Aisha]
あなた、ご飯にする? それとも先にお風呂?
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[Anri]
ああ、これだよこれ……。答えは決まってるよ。もちろん、いちばんおいしいキミをいただくのさ〜! なんたってエプロンの下ははだか……。
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[Anne Shirley]
ああ、いけません、いけません、主人が帰ってきたら……! ああ、そんな、そんな……!
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[Anri]
わ、わ、うあわぁ!
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[Anri]
あれ? ぼくの……部屋?
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[Aisha]
ランカスターさん、ソーセージ、炒め上がったみたいです。
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[Eliza]
それじゃ、小麦粉を入れてください。ひとしきりあえたら、お湯を注ぎます。
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[Aisha]
は、はい!
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[Eliza]
緊張しなくても平気ですよ。
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[Aisha]
は、はい!
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[Narration]
杏里の部屋のキッチンで、エプロン姿のアイーシャが、イライザと一緒になにやらフライパン、鍋、オーブンを相手に奮闘している。
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[Anri]
あれ? あれ?
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[Anne Shirley]
どうしたの、杏里。
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[Anri]
うわぁ!
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[Anne Shirley]
素敵なリアクションね、杏里。
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[Anri]
そうか、さっきの妙な夢はキミにやられたんだな。
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[Narration]
杏里は、自分の前に置かれた飲みさしの紅茶とアンシャーリーを見比べながら言う。
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[Anne Shirley]
よい夢は見れて? あたしはバッドトリップよ。あなたの夢に行けやしない。やっぱり量が少なかったのかしら。それとも、純度?
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[Anri]
いや、来てたよ、しっかりとね。
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[Narration]
杏里は再びキッチンへと視線を戻す。
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[Aisha]
あの、料理酒ってどんなお酒なんですか?
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[Eliza]
……どんなお酒でもいいんですけどね。
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[Narration]
何事かと言えば、アイーシャの特訓だった。イライザに協力を頼んで、料理を教わることになった。
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[Narration]
なぜか、始めてみればアンシャーリーがこの場でお茶を飲んでいるのが不思議と言えば不思議だ。
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[Anne Shirley]
料理の分量は四人分が基本だからちょうどいいのよ。ああ、ボゲードンはそんなに食べないから心配しなくていいわ。
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[Anri]
……そりゃ、どうも。
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[Narration]
キッチンの方はどうやら佳境に入っているようだ。杏里は視線を戻す。忙しく動き回るエプロン姿とメイド服を見てると、自然に口元が弛む。
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[Anri]
世界でこれほど、後ろ姿がそそるのってそうはないだろうなぁ……。
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[Eliza]
胡椒をもう少し……、はい、これでこっちはOKです。
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[Aisha]
あ……。
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[Narration]
緊張し通しだったアイーシャの顔が安堵の笑みで弛む。
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[Aisha]
あ、スープの方は……? 確か、これからオーブンで煮るんですよね?
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[Eliza]
はい。でも、それは、これから二時間以上かかりますから……。
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[Narration]
イライザはアルミホイルで覆われた深鍋をオーブンの前まで持っていく。オーブンの蓋を開けて……。
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[Eliza]
すでに、こちらに完成したものが用意されております。
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[Narration]
焼け焦げのついた同じ鍋を中から取り出す。
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[Anri]
料理番組……?
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[Anri]
おいしいよ、アイーシャ! 初めて料理に挑戦したなんて信じられないよ!
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[Aisha]
あ、ありがとう……。
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[Eliza]
ソーセージ料理の方はキャセロール、シチューの方はランカシャー・ホットポットと言います。
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[Anne Shirley]
……ちょっとハーブが足りないわね。
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[Eliza]
アンシャーリー様、味付けの変更は、ご自分のお皿だけにお願いします。
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[Narration]
申し分なく完成された料理を中心にテーブルを囲む。
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[Eliza]
器用なのでしょうね。私が初めて厨房に入った時には、ジャガイモの皮さえ満足に剥けませんでしたから。
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[Aisha]
あ、そんな……。
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[Anri]
アイーシャ、イライザはキミのことをすごいってほめてくれてるんだよ。
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[Aisha]
あ……、ありがとうございます。
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[Narration]
アイーシャははにかみながら、賛辞を受け取る。
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[Anri]
料理の上手な女の子っていいよね。アイーシャ、いつでも幸せなお嫁さんになれるよ。
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[Aisha]
幸せなんて……。
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[Aisha]
そんな……。
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[Eliza]
杏里様はお料理はなさらないんですか?
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[Anri]
ボクはいいの。幸せなお婿さんになって、花嫁さんをもらうんだから。
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[Eliza]
最近は、お婿さんも家事のできた方がよろしいとか。
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[Anne Shirley]
いいでしょう!
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[Narration]
唐突にアンシャーリーが立ち上がる。
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[Anne Shirley]
アイーシャ。罪深き迷える子羊。あなたが闇の中で光を探すために、あたしも手を貸しましょう。
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[Anne Shirley]
これは不思議なお茶よ。入れ方さえ間違えなければ、相手は二時間は夢の世界に旅立ち、そのあいだの出来事は何も憶えていないわ。
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[Anne Shirley]
いざとなったら、直接かがせてもOKよ。
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[Aisha]
え? え……?
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[Anri]
こらこら、アンシャーリー。
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[Eliza]
では皆様、食後のお茶はいかがですか?
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[Anri]
お願いするよ、イライザ。できれば、アンシャーリーのお茶より早く。
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[Eliza]
かしこまりました。
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Summer Fuse
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Anaerobic Love
Missing Rink Side:Shuri
Missing Rink Side:Rina
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Hana ni Arashi
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