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[Alma]
──おはようございます、杏里様。
>

[Narration]
土曜日。杏里はまず、アルマと自分の部屋で待ち合わせをした。
>

[Narration]
これまで集めた情報を、天京院の力を借りず、まず自分で分析してみたかったのだ。
>

[Narration]
アルマは、そのお手伝いである。
>

[Anri]
それでは、始めようか……。
>

[Narration]
──数時間後。
>

[Narration]
膨大な情報を検証し終えた杏里とアルマは、ティータイムを取りながらまとめにはいっていた。
>

[Anri]
……もう、認めるしかない。やっぱり、かなえさんは怪しい。
>

[Alma]
そうですね……犯人であるとは断定できませんが、何かわたし達にお隠しになっているのは確かでしょう。
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[Anri]
なによりまず、このデジタルカメラのメモリースティックだ。
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[Anri]
アイーシャ・スカーレット・ヤンが襲われた直後を撮影したものが記録されているメモリー。
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[Alma]
それが、少なくとも天京院様の持ち物の中に紛れ込んでいた。
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[Anri]
……これだけでも、疑う理由は十分なほどだ。
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[Anri]
……そして。
>

[Anri]
これまた確証をとったわけじゃないけど、かなえさんは以前、学園のメインシステムに侵入したことがあるらしい。
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[Alma]
同じように、今回も好きなように情報を引き出した可能性があるわけですね?
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[Anri]
考えてみれば、そういう事に強い、最も身近な天才だったんだよな……かなえさんは……。
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[Anri]
……そして。
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[Anri]
イライザの言っていたこと……。
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[Alma]
天京院様が、杏里様を好きだという話ですか?
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[Anri]
これは……なんだか、ボクには信じられないよ。
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[Anri]
だいいち、今度の事件ではボクだって半分は被害者だ。
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[Anri]
かなえさんがボクを好きだとしたら、なんでそんなことをする必要がある?
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[Alma]
………………。
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[Narration]
アルマはあえて何も言わなかった。
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[Narration]
彼女には──今の、杏里に対する気持ちがあるアルマには、理解できたのだ。
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[Narration]
もし、そこに理由があるのなら、それは「嫉妬」という感情だろうと。
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[Anri]
……そして。
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[Anri]
一番わからないのが、これだ。
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[Anri]
どうして脅迫なんか、する必要があったのか?
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[Alma]
天京院様は、別にお金に困っていらっしゃらないんですね。
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[Alma]
むしろお金が必要なのは、イライザさんと……あら、ウェルズさん?
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[Alma]
なんでしょう、この船倉賭博というのは?
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[Anri]
ギャンブルだよ。ウェルズさん、実はそうとうアツクなるタチらしいね。
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[Alma]
まあ、こんな趣味がおありだったなんて知りませんでしたわ。
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[Anri]
なんにせよ、かなえさんが脅迫する理由はやはり見当たらない。
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[Anri]
……どういうことだろう?
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[Narration]
そろえた情報の検討を終えた頃には、もう陽が暮れ始めていた。
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[Narration]
杏里は決心を固めて、アルマを見た。
>

[Anri]
……もう、これ以上はボクらがどう考えたところで、何も進まない。
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[Alma]
……はい。
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[Anri]
──始めよう。
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[Narration]
──どこか悲壮な覚悟を決めて、杏里とアルマは天京院を部屋に呼び出した。
>

[Narration]
何もなかったかのように、天京院は杏里の部屋を訪れた。
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[Tenkyouin]
……遅かったね。
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[Narration]
アルマの姿を見ても、天京院は眉根ひとつ動かさなかった。
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[Narration]
もとより、それも予想済みであるかのように……。
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[Anri]
かなえさん……。ボクとアルマは、今度の事件についてあらためて検討してきた。
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[Tenkyouin]
……ほう。
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[Anri]
それを聞いてくれるかな?
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[Narration]
杏里はすがるような、挑戦するような視線を天京院に送った。
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[Narration]
──が、天京院の方は視線を避けたまま、目をあわせようとしない。
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[Narration]
杏里の後ろに、そっと寄り添うようにアルマが立った。
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[Tenkyouin]
……聞こう。
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[Anri]
うん……。
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[Anri]
まず、この事件は、最初からえらく難しいものだった。
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[Anri]
ボクはずいぶんPSの無能を嘆いたけど、逆にいえばそれほどまでPSが追い詰められるぐらい、手がかりがなかったんだ。
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[Anri]
特にPSは警備が本職で、捜査する組織じゃないからね。
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[Anri]
被害者が出るたび警備の裏をかかれるだけで、お手上げになってしまっていた。
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[Anri]
コンピューターから情報を引き出したともPSの読みを逆手に取ったとも言われているけれど……。
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[Anri]
ここから推論できるのは、犯人がえらく頭のいい奴だってことさ。
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[Narration]
杏里は一気に言って、ここで天京院の方を伺った。
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[Narration]
天京院は相変わらずの姿勢のまま、視線をさ迷わせている。
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[Tenkyouin]
……続けて。
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[Narration]
杏里は何か言いたそうにしたが、首を振って先を続けた。
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[Anri]
次は、被害者の共通点だ。
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[Anri]
被害者はファーストクラスからサードクラスまで広がっていて、学生であるという以外、共通点はないように見える。
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[Anri]
……でもここにも、PSには理解できない共通点があったんだ。
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[Anri]
被害者はみんな、ボクより年下で……。
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[Anri]
はっきり言ってしまえばボク好みの、然るべき出会いがあれば、ボクが好きになってしまいそうな女の子ばかりだった!
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[Narration]
杏里はわずかに震えながら、天京院を睨み付けていた。
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[Narration]
ふっ……と、天京院の口元がほころぶ。
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[Tenkyouin]
……なら、こうも言えるね。
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[Tenkyouin]
その被害者たちは、たとえ襲われなくとも──いずれ、杏里の毒牙にかかる運命の者ばかりだった、と。
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[Alma]
そんなことはありません!
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[Alma]
襲われた方たちのされた事と、杏里様に愛されることは、決して同じではありません!
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[Alma]
それは違います、天京院様。
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[Narration]
天京院はこの剣幕にやや驚いたようだが、やがて深く嘆息した。
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[Tenkyouin]
……君がそう言うのか、アルマ・ハミルトン。
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[Tenkyouin]
ならば……きっとそうなんだろう。少なくとも、犯人は本気ではなかったろうからね……。
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[Anri]
犯人が、遊びで女の子を襲っていたということかい……?
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[Tenkyouin]
そういう意味じゃない……まあいい、続けてくれ。
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[Narration]
杏里は釈然としないものを感じながら、促されるままに続けた。
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[Anri]
……ここまで話しても、まったく犯人の全体像は見えてこない。
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[Anri]
まるで容疑者が絞り込めないんだ。なにしろ、動機さえわからないんだから。
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[Tenkyouin]
動機……ね。
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[Anri]
何をどうしていいのか、ボクにはまるでわからなかった。
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[Anri]
退学のタイムリミットが近づいてくるのを、ただ待つことしかできないと……思ったよ。
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[Alma]
………………。
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[Anri]
けど、偶然……本当に偶然に、とんでもない物が手に入った。
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[Narration]
杏里の声が震えた。天京院は無言で立っているだけだ。
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[Narration]
杏里はプリントアウトされた写真を差し出した。
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[Narration]
アイーシャの陵辱写真。
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[Narration]
天京院はぴくっ、と眉を動かし、また目をそらせてしまった。
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[Anri]
これは、イライザがかなえさんのクリーニング品の中から発見した、メモリースティックに記録されていたものだ。
>

[Anri]
説明するまでもないと思う……犯人でなければ、とても写せないような写真なんだ、これは。
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[Narration]
天京院と同じく、杏里もまた目をそらせたまま話しつづけた。
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[Anri]
どうしてこれを持っていたのか……説明してくれ、かなえさん。
>

[Narration]
しん……と、場に静寂が訪れた。
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[Narration]
杏里も、アルマも、自分の鼓動音だけが響き渡っているかのような、長い時間が過ぎた。
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[Narration]
それを破ったのは、天京院だった。
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[Tenkyouin]
まあ……合格かな。
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[Anri]
……え?
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[Narration]
天京院は杏里から視線をそらせたまま、表情をひきしめた。
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[Tenkyouin]
イレギュラーもあったけど、無事にたどりついて良かった。
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[Tenkyouin]
これで君も、退学はまぬがれるわけだ。
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[Anri]
かなえさん……?それって、どういう意味さ……。
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[Narration]
背後で、アルマも硬直する気配が伝わってくる。
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[Tenkyouin]
杏里、ここまできて、わからないふりはやめたまえ……。
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[Anri]
でも……だって、ボクは……かなえさんから、言い訳を聞こうと思っていただけで……。
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[Tenkyouin]
言い訳なんかないよ。
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[Narration]
静かに、そして冷たく、天京院は言い放った。
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[Tenkyouin]
そうだよ、杏里……。あたしが犯人だ。
>

[Narration]
そのひと言が杏里とアルマに浸透するまで、しばらく時間がかかった。
>

[Narration]
ようやく意味を理解したとき──杏里は、どさっ、とソファに座りこんでいた。
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[Anri]
……かなえさん、どういうこと……。
>

[Tenkyouin]
わからないふりはやめろ、と言っただろう。
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[Tenkyouin]
だから──そういうことだ。君は退学をまぬがれたんだよ、杏里。
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[Alma]
あ……あの……。
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[Tenkyouin]
君の相手ができなかったのは残念だよ、アルマ・ハミルトン……。
>

[Narration]
天京院は酷薄な声で言った。
>

[Tenkyouin]
さぞ、綺麗な声で鳴いたろうに。
>

[Anri]
──かなえさん!
>

[Narration]
杏里が顔をあげた時、天京院はすでに部屋から出て行こうとしているところだった。
>

[Tenkyouin]
………………。
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[Anri]
待ってくれ、かなえさん!──なんで!?
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[Narration]
返事はなかった。
>

[Narration]
天京院は、そのまま部屋から歩み去ってしまっていた。
>

[Narration]
──数時間後。
>

[Narration]
杏里とアルマは、真剣な顔をして互いを見つめあった。
>

[Anri]
……アルマ。
>

[Alma]
……杏里様。
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[Anri]
どうしよう?
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[Alma]
なんだか、ぜんぜんわかりませんわ?
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[Anri]
ああ、どうしよう、これじゃあ……。
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[Alma]
退学決定……ですわね。
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[Anri]
なんてことだ、ここまできて……。
>

[Alma]
申し訳ありません杏里様、お役にたてなくて……。
>

[Anri]
ああ……。
>

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