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[Narration]
いつものごとく静寂な図書館。クローエは貸し出しカウンターの中に座って、本を読んでいた。
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[Anri]
やあ、クローエ。
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[Chloe]
杏里じゃない……どうしたの?
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[Anri]
なにが?
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[Chloe]
だっていまの挨拶、とても杏里とは思えなかったわよ。静かだし。
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[Anri]
いやだな、まるでいつもいつもボクがやかましいみたいじゃないか。
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[Chloe]
みたい、じゃなくてそうなの。
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[Chloe]
何か用?
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[Anri]
つれないな、ボクが図書館にやって来る理由なんて、キミに会いに来る以外あると思うかい?
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[Chloe]
……まあ、ないでしょうね。
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[Anri]
そうとも。
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[Chloe]
いまのは皮肉だったんだけど……。
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[Narration]
嘆息してクローエは本を閉じた。
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[Chloe]
それで、用件はやっぱり、事件についてでしょう?
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[Anri]
うん、ささいな情報でもいいから教えて欲しいな。
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[Chloe]
そう言ってもねぇ……。
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[Narration]
クローエは自分の見聞きした噂話を2、3披露したが、それだけで話は終わってしまった。
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[Anri]
ずいぶんシンプルだな。
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[Chloe]
ほとんどここで本を読んでるからね。あまり、噂話にも縁がないわ。
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[Anri]
こんな知の宝庫に居ながら。
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[Chloe]
図書館の資料をさぐったって、犯罪を解決する糸口なんてそうそう見つかるものじゃないわ。
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[Chloe]
こんなところに来るより、現場でも回っていた方がいいんじゃないの?
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[Anri]
現場検証はPSが何度もして、その都度何も発見できていないんだ。
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[Anri]
イライザやニコルを通じて、そっちの情報だけは通るようにしてあるんだけど。
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[Narration]
だからこそ、杏里は学生の話の中から情報を集めるべし。それが、天京院が最初に決めた方針だった。
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[Chloe]
けど、最後にものをいうのは、やはり物証だと思うわよ?
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[Anri]
うーん……。
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[Narration]
残された時間を考えれば、杏里とて焦らないわけではない。
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[Narration]
しかし、逆にいまさら、正統的な手段でいちから捜査している時間は残されていなかった。
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[Anri]
ボクなりのやり方を続けるしかないよ……神さまも努力は認めてくれるだろう。
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[Chloe]
杏里に味方する神さまは少ないと思うけどね。
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[Anri]
おぉ、ついに神にも見放されたか!──あ、そうだ。
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[Narration]
杏里は、ふとレイチェルから聞いたデータ盗難事件の話を思い出し、クローエに尋ねた。
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[Anri]
……ってことなんだけど、知ってる、クローエ?
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[Chloe]
あれだけ騒ぎになった事件だもの。もちろん知ってるけど……。
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[Chloe]
杏里、本当に知らなかったの?
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[Anri]
不思議だね?
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[Chloe]
……まあいいわ。わたしも確かめたわけではないけど、確かに犯人については噂されていたわよ。
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[Anri]
……誰?
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[Chloe]
天京院さん。
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[Narration]
杏里が眼を丸くした。
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[Anri]
……かなえさんが……。
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[Chloe]
本当かどうかはわからないけどね……まあ、あの人のことだから、本当だとしても、証拠なんか残さなかったろうし。
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[Anri]
………………。
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[Chloe]
……どうしたの、杏里?
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[Anri]
あ、いや……。
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[Anri]
そうか、やっぱりかなえさんには、それぐらいの芸当はできるんだねぇ。
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[Anri]
この学園のコンピューターから、データを持ち出すような真似が……。
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[Narration]
杏里はクローエに礼を言って、図書室を後にした。
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[Narration]
足取りは、重かった。
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[Anri]
なんのために?
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[Chloe]
知らないわ。別にあの人が犯人だという証拠だって、あったわけじゃないし。
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[Chloe]
本当だとしても、証拠なんて残さないでしょう、天京院さんなら。
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[Anri]
そうか……。
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[Narration]
杏里はクローエに礼を言って、図書室を後にした。
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Hana ni Arashi
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