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[Anri]
ボンジュール、かなえさん。
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[Narration]
約束の時間通りやって来た杏里を、天京院はいつものように静かに迎えた。
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[Anri]
今回は、少し整理してみたつもりなんだけどね。
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[Tenkyouin]
……その分量じゃあ、焼け石に水という気がするけど、まあいいか。
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[Tenkyouin]
時間が惜しい。すぐに始めよう。
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[Anri]
ウィー。
>

[Narration]
何度かの休憩をいれながら、ひと通り資料に目を通し終わった天京院は、じっと考え込んでいた。
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[Narration]
思考の邪魔をしないよう、杏里も口は開かず、まったりとした時間だけが流れていく。
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[Tenkyouin]
……脅迫、か。
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[Narration]
ようやく天京院がポツリと呟くまで、けっこうな間があった。
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[Tenkyouin]
情報から判断するに、脅迫が行われているのは事実だな。
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[Tenkyouin]
ただ、脅迫の対象は、いまだ被害者個人のようだ。保護者を巻き込んだ大規模な脅迫事件に発展した様子は、まだない。
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[Anri]
被害者の女の子に、脅迫状が送られているということ?
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[Tenkyouin]
──とはいえ、この学園の学生である以上、動かせる金額は決して小さくないとは思うがね。
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[Tenkyouin]
百万ドルという単位には、少なくとも達していない気配だな。
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[Anri]
金が目的のレイプだっていうのか……卑劣な……。
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[Tenkyouin]
いや……。
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[Narration]
天京院の瞳がかげった。
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[Tenkyouin]
それにしては被害者の選ばれ方がそぐわない。
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[Tenkyouin]
始めから金銭目的なら、もっと狙われてしかるべき学生が他にいる。
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[Anri]
どういうことだ?
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[Tenkyouin]
………………。
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[Narration]
押し黙ったまま首を振る。
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[Tenkyouin]
……とりあえず、杏里は当面、脅迫についてあまり意識せず捜査を続けた方がいいだろう。
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[Anri]
どうして?
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[Tenkyouin]
金が目的だとすると、そもそもあたしが最初に選んだ3人の被害者候補……あの前提さえ崩れてしまうんだ。
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[Tenkyouin]
ファン・ソヨンが襲われたのは事実。つまり、あたしの推理は間違っていなかった。
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[Anri]
けど、脅迫は予想していなかったんだよね?
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[Tenkyouin]
そこに……何かあるんだ。何か、イレギュラーが……。
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[Tenkyouin]
それから……。
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[Tenkyouin]
犯行目的が、暴力行為そのもの、あるいは恨みや憎しみによるものではないかというものだが……。
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[Anri]
いきなり、さっきの脅迫と矛盾するな。
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[Tenkyouin]
そうでもない。脅迫が金銭目的ではなく、被害者を更に追いつめるための方便だとしたら……。
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[Anri]
そんな──あんまりだ!
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[Tenkyouin]
脅迫された時点で、目的が金でもそうでなくても、被害者にとっては一緒だろう。
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[Anri]
………………。
>

[Tenkyouin]
被害者の発見された時の状況からして、動機としては金よりこっちの方が可能性が高い。
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[Anri]
なんで……。
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[Tenkyouin]
それを予想するには、判断材料が足りないよ。
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[Tenkyouin]
さて……。
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[Tenkyouin]
犯人が知能犯で、しかもそれを誇示していることは間違いないね。
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[Anri]
犯罪そのものを楽しんでいる……?
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[Tenkyouin]
それはどうだか……。ただ、犯罪を隠すつもりはまったくないようだ。
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[Tenkyouin]
これだけ周到に計画するなら、被害者の口封じまでして、犯行を包み隠すことだってできるだろうに。
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[Anri]
……犯行を見せつけている?
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[Tenkyouin]
あるいは、被害者をね。
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[Narration]
ひと通り検討を終えた天京院の顔は、暗く沈んでいた。
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[Tenkyouin]
この脅迫の事実で、PSは犯人への道しるべをまったく失うかもしれない。
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[Anri]
……かなえさんは、脅迫事件を調べても犯人にたどり着けないと思うのかい?
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[Tenkyouin]
うん……。動機を金に絞るのは危険だ。
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[Tenkyouin]
方針はこのまま。杏里、ここからが勝負だよ。
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[Anri]
……わかってる。
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[Narration]
これからの捜査のアドバイスをいくつかもらって、杏里は部屋を後にした。
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[Narration]
残された天京院は散らばった情報メモを拾いながら、ふとため息をついた。
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[Tenkyouin]
あと……1週間か……。
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[Tenkyouin]
……ふう……。
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[Narration]
沈黙すること十分間。ようやく室内に響いたのは、天京院の低いため息だった。
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[Narration]
杏里もその間、まったく言葉を発していない。
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[Tenkyouin]
……杏里……。
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[Anri]
うん?
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[Tenkyouin]
君はこの1週間、何をやってたんだ?
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[Anri]
あれ、えーと……?
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[Tenkyouin]
こんなクズ情報ばかりじゃ、何もわからないよ!
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[Anri]
──ええっ!?
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[Tenkyouin]
はぁ……もう面倒見切れないな。
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[Anri]
そ、そんな、かなえさん……!
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