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[Narration]
誰かの訪問を告げるチャイムが鳴ったのは杏里が今日知り得た情報を吟味しながら、風呂に入っている時だった。
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[Anri]
……誰かな?
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[Narration]
浴室に備え付けられたインターホンで確認することもなく、杏里はバスローブをまとっただけでドアに向かった。
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[Narration]
いま自分の捜査している事件のことを思えば、無警戒ともいえる行動だが、杏里自身は何かあっても対処できるという思いがある。
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[Narration]
特に腕力を鍛えているわけではないが、反射神経と杖術には自信があった。
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[Narration]
無謀とも、あるいは楽天的ともとれるが、彼女にしてみれば犯人が自分の所へ来てくれるのは、千載一遇のチャンスとしか考えていないのである。
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[Narration]
──しかし、ドアの外に立っていたのは犯人ではなかった。
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[Alma]
も、申し訳ありません……入浴中でいらしたのですね……。
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[Anri]
いやあ、アルマならいつでも大歓迎だよ!……ところで……。
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[Narration]
と、ウェルズの姿がないのを確認して。
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[Anri]
今日も、ウェルズさんは一緒じゃないんだね?
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[Alma]
あ、はい。……杏里様の所へ行きたいと言ったら、きっと反対されますから。
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[Narration]
杏里はやや表情を曇らせた。
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[Anri]
もちろんボクとしては、キミに会えるのは嬉しいんだけど……。
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[Anri]
まだ、そんなに遅い時間じゃないとはいえ、ひとりで出歩くのは不安だな。
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[Anri]
なんといっても、アルマは被害者候補なんだし……。
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[Alma]
……はい……申し訳ありません……。
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[Anri]
いや、別に責めてるんじゃないよ!?
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[Anri]
ただ……キミのことが心配なんだ。
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[Alma]
杏里様……。
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[Narration]
杏里は笑顔を見せると、軽く髪をタオルでぬぐってソファに腰掛けた。
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[Anri]
──どうぞ。それで、どうしたの?
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[Alma]
特に、急な用件があったわけではないんです。
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[Alma]
ただ、事件のことが気になって、勉強もあまり手につかなくて……。
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[Anri]
そうか……。
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[Alma]
何か、新しい手がかりはありましたか?
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[Anri]
う、ん……。
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[Narration]
杏里は脅迫事件のことを口にするか迷い口ごもった。
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[Narration]
イライザも確実な話ではないと言っていたし、アルマを不安にさせるだけの気もする。
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[Narration]
やはり、軽々しく口にすべきではないだろうか……。
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[Alma]
………………。
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[Narration]
しばらく杏里の顔を眺めていたアルマはふっ、と息を吐いた。
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[Alma]
杏里様、わたし、何でも根ほり葉ほり聞こうというわけではありませんわ。
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[Alma]
お手伝いをしたいと思っても、わたしに出来ることなんて知れておりますし。
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[Alma]
言えないことがあれば、無理にお話していただかなくて平気です。
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[Anri]
アルマ……うん、ちょっとまだ、確実な話じゃないんだ。
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[Anri]
それに、真犯人に近づく情報なのかどうかも、よくわからない。
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[Alma]
そうですか……まだ、犯人の手がかりはないんですね。
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[Anri]
うん、悔しいけどね。
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[Narration]
杏里はため息をついたが、暗くならないよう、すぐにいつもの笑顔を見せた。
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[Anri]
なあに、大丈夫さ。必ず真犯人を見つけてやるさ。
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[Anri]
だからアルマ、心配しないで。それから、やっぱりひとりで出歩かない方がいいよ。
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[Anri]
その方が、ボクも安心して事件を調べられるからさ。
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[Alma]
はい、わかりました。……もっと杏里様を信じるようにいたします。
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[Anri]
──光栄の至り。さあ、部屋まで送ろう。
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[Alma]
え……っと、そのお姿でですか?
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[Narration]
杏里はバスローブだけの自分の格好をいまさらのように見下ろした。
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[Anri]
おっと、これは失礼。
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[Narration]
さっと着替えてアルマを送ってきた杏里は、彼女の部屋の前で軽く手の甲にキスをした。
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[Anri]
ボンソワール、アルマ。おやすみ、いい夢を。
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[Alma]
はい、おやすみなさいませ、杏里様。
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[Narration]
アルマが振り返りつつ部屋に戻るのを見届けると、杏里は踵を返した。
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[Narration]
とりあえずもうひと風呂浴びてから、明日の計画を立てよう……と考えながら。
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Anaerobic Love
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Hana ni Arashi
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