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[Narration]
図書館にやってきた杏里は、いくつかの不審の目を受けながら、怖れることなく深部に踏み込んでいった。
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[Narration]
英知の園たる書棚の摩天楼も、此度の事件を紐解く鍵になるとは思われない。
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[Narration]
杏里の目指すものは書物に非ず──人物であった。
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[Anri]
あっ──!
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[Anri]
──────!!!
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[Narration]
杏里の網膜に大銀河がとんだ。
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[Narration]
………………。
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[Narration]
…………。
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[Anri]
う……うん……?
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[Chloe]
……目は覚めた、杏里?
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[Narration]
図書館の最深部、薄暗い書棚の影に杏里は寝かされていた。
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[Narration]
痛む頭頂部をさすりながら、身を起こす。
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[Anri]
ああ……クローエ?ひどい夢を見たよ。何千羽というキツツキがボクの頭を大樹と勘違いしてつつくんだ。
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[Chloe]
……キツツキ?
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[Anri]
おかげでまだガンガンしている……ほら、こぶまで……こぶ?
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[Narration]
ハッと杏里は面を上げた。
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[Anri]
いきなりひどいじゃないかクローエ!?
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[Chloe]
悪かったわ、だから大声を出さないで、杏里。
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[Narration]
不機嫌が制服を着たような少女は、用心深く周囲を見回した。
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[Chloe]
いきなり蹴り倒したのは謝るけれど、そうしなければあなた、大声で挨拶していたでしょう?
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[Chloe]
……ねえ、自分が謹慎の身だと、どこまで理解しているのかしら?
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[Anri]
拷問の塔に捕らえられた罪人のごとく、よく理解しているつもりだよ。
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[Anri]
確かに……喜ばしい出会いに気をとられて忘却することも、ないではないけどね?
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[Chloe]
あなたって人は……。
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[Narration]
クローエは身を起こす杏里に手を貸した。
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[Chloe]
ここは静謐をモットーとする憩いの空間よ?騒がしくすれば、それだけでPSだって呼ばれる。
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[Anri]
PSはいま忙しいよ。みんなだって、騒がしいガチョウの1匹ぐらい大目に見てくれるんじゃないかな?
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[Chloe]
少なくとも、わたしは通報するわ。
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[Anri]
……静かなる掟に殉じよう。
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[Narration]
杏里は書棚に体重を預け、できるだけ小さな声で訊いた。
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[Anri]
ボクがここに来た理由なんて、賢いクローエにはとっくに分かっていると思うけど……。
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[Anri]
例の事件の手がかりになりそうな情報って、何かあった?
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[Chloe]
単刀直入な物言いね。
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[Anri]
カッコつけてる余裕もないんだ。なにしろ残された時間は2週間を切ってる。
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[Chloe]
……情報といえるほどのものかどうかわからないけど、あるわ。それで、わたしもあなたを捜していたのよ。
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[Anri]
いまはどんな些細な話でも聞かせて欲しいね。
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[Chloe]
そう……。実は、PSが図書館のコンピューターを調べに来たのよ。
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[Anri]
ははあ……犯人の使用した体位が一般にはもう幻となっている『五月雨反屈位』だと知って、室町体位集77手を探しに来たというわけだね?
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[Chloe]
……なにそれ、そんな情報があったの?
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[Anri]
ううん、冗談。
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[Anri]
さあクローエ、そんな般若のような顔はやめて、話の続きを。
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[Chloe]
時間がないと言ったのはあなたでしょうに……。
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[Chloe]
調査目的は秘密……だったんだけど、図書委員の子がひそひそ話を聞き止めちゃったらしくてね。
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[Anri]
人の口に戸は立てられぬ。噂は千里を走るというからね。
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[Chloe]
どうやら、PSのメインシステムに、ここから侵入したらしいって……。
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[Anri]
──なんと!?じゃあ、犯人は図書委員である可能性がある、と……?
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[Chloe]
いいえ、最後まで聞いて。
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[Chloe]
PSもその可能性を考えたらしいけど、結局ここは中継点に使われたに過ぎないと判明したそうよ。
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[Anri]
……中継点?
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[Chloe]
そう……ここを使用したという形跡そのものも、ダミーだったって。
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[Anri]
じゃあ、結局、何もわからないのと同じじゃないか。
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[Chloe]
そうなんだけど……あと、気になる話があってね。
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[Chloe]
どうも、これまでのハッキングもかなり手の込んだもので……不必要なぐらい、世界中を中継してるって。
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[Chloe]
まるで技術を見せつけてるみたいで……それが気にくわないって、PSはかなり頭に来てたようね。
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[Anri]
犯人が頭がいいってのは、もう十分にわかってるからなぁ……。
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[Anri]
少なくとも、ボクよりは。
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[Chloe]
あなたは天才だと思うけどね。……使いどころが極端なだけで。
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[Anri]
頭の良さを見せつける犯人か……。何かの挑戦なんだろうか?
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[Anri]
けど、そんなもの気取るなら、挑戦状のひとつぐらい残していってもいいのに。
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[Chloe]
こんな大騒ぎを好んで起こす輩が考える事なんて、わかりたくもないわ。
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[Narration]
クローエはしかめ面を崩さずに言い切った。
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[Chloe]
役に立つかどうかわからないけど、わたしの聞いた話はそれだけよ。
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[Anri]
ありがとう、役に立つかどうかは、かなえさんに判断してもらうよ。
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[Chloe]
天京院さん……?
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[Chloe]
そうね、あの人も変人だけど頭はいいものね。案外、犯人の気持ちがわかるかも……。
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[Narration]
杏里はクローエに礼を言って、図書室を立ち去った。
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List of all oneshots
List of all series

(Recent Oneshots)

Isn't It Fine To XX Freely
That Red on Me
First Love Mint Blue
Summer Fuse
Girl Who Can't Say No (Daga Kotowaru)
Cubic Starship
Anaerobic Love
Missing Rink Side:Shuri
Missing Rink Side:Rina
Heart Pendant

(Recent Series)

The Rain and the Other Side of You
Hana ni Arashi
Kakegurui Yorozu
Tsubakuma!
Someday, We'll Get There
Honto no Kokoro
Hayate X Blade
Motto Hanjuku Joshi
Yuunagi Marbled
Strange Babies