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[Narration]
夜のせせらぎに、杏里は一人立つ。
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[Narration]
青い瞳の奥に、水鏡に反射した星の輝きがまたたく。
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[Narration]
人気のないプールでは、いたる場所で水が噴出し、モザイク張りの床面や、扇形に広がる階段の上に、平坦な流れをつくりながら、ゆったりと循環している。
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[Narration]
吸い込まれるような夜空は、空にも地の水鏡にも分け隔てなく広がり、古代の遺跡を、星の海のただなかへと浮かびあがらせていた。
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[Narration]
ぴょんと飛び石を渡って近道をした杏里は、プール中央のやや高くなった石壇の上にやって来ると、一息ついて腰をおろした。
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[Anri]
……ここがいい。ここなら見晴らしもいいし、寝そべっていれば、逆に、他からは見つかりにくい。と思う。
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[Narration]
ころんとその場に横になった杏里は、腕まくらをして見上げた空の深さに、一時、心を奪われた。
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[Anri]
…………っ…………なんて……綺麗なんだろう……
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[Anri]
ソヨンと一緒に見られたら……もっと綺麗だったろう……
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[Narration]
むらむらと都合のいい妄想を働かせる杏里は、かぶりを振る。
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[Anri]
いや、いけない! まじめにやらなきゃ。ソヨンにもかなえさんにも申し訳が立たない!
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[Anri]
この場所を犯人が通るはずなんだ……今夜こそ、今夜こそ、終わりにするんだ!
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[Narration]
時々場所を移しながら、プールのあちらこちらへ目を利かせる杏里だったが……
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[Anri]
……あきた……
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[Narration]
まだ10分も経過していない。
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[Anri]
……ヒマだなぁ……動かないでいると、ここもだんだん寒くなってきたし……
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[Anri]
……だいたいボクには、張り込みなんて地道な仕事は向いてないんだよ……
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[Narration]
かといって満足な推理もできないのだが。
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[Anri]
……はぁ……早く来ないかなぁ……レイプ犯の人……
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[Narration]
そしていつしかまた、杏里の想いは一人の少女へと戻っていった。
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[Narration]
みあげる夜空に、次々と少女の豊かな表情が浮かびあがる。
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[Anri]
はぁ……可愛かったなァ……パンツまるみえで……チョゴリの帯が脚の合間でゆらゆら揺れて……猫のしっぽみたいだった……
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[Anri]
……はぁぁぁぁ…………あんまり焦らされると……こっちがどうにかなっちゃいそう……
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[Soyeon]
杏里さ〜ん……
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[Narration]
深いため息をつく杏里の耳に、かぼそい声が届いた。
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[Soyeon]
……杏里さ〜ん……
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[Anri]
……
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[Soyeon]
……あ〜んり〜さ〜〜〜〜ん……
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[Anri]
……はぁ……ソヨン……
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[Anri]
……ついに幻聴まで……いよいよボクの恋わずらいも、本物になったかな……
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[Soyeon]
杏里さ〜〜ん…………きゃっ!
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[Narration]
───ごつっ!
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[Soyeon]
ううっ……痛いよぉ……
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[Anri]
…………
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[Soyeon]
うううっ……杏里さぁ〜〜ん………どこにおられるんですか〜〜…………
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[Soyeon]
あっ……!
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[Narration]
ごつっ!
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[Narration]
またもや鈍い音。
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[Anri]
……え?
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[Narration]
目をぱちくりさせながら、杏里はようやく自分の耳を信じる気になってきた。
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[Narration]
あくまでもかぼそいが、確かにその声は───
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[Anri]
ソヨン。
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[Narration]
杏里はざっと立ち上がった。
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[Soyeon]
……杏里さ〜〜ん……
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[Soyeon]
あ───ん───り───……さ…ん……
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[Soyeon]
……ぐすっ……やっぱりいないのかな……でも、もう……どうやって戻ればいいか、わからなくなっちゃった……
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[Soyeon]
杏里さん……お願い……返事をして……あたし……怖い……です…………きゃっ
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[Narration]
ばしゃっと、音がして、ソヨンの靴先は浅い水面に浸された。ひんやりとした感触が足の裏をなでていく。
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[Narration]
たちまち、がくがくと震えがかけあがり、ソヨンはその場にへたりこみそうになる。
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[Soyeon]
……杏里さ……ん……あたし、あたし……ううっ……ぅぅぅ……
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[Anri]
───ソヨン!
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[Soyeon]
……杏里さん……!?
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[Narration]
かたく目をつぶったまま、ソヨンは杏里の声に敏感に反応した。
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[Anri]
ソヨン! ……どうして!
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[Soyeon]
ああッ……杏里さァん!
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[Narration]
ソヨンはやはり目を閉じたまま、ばしゃばしゃと水を蹴立て、杏里の声に向かって駆けだした。
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[Anri]
あっ……危ないよソヨン!
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[Narration]
杏里は石の段差の上から、膝ほどの深さの水面へと飛び降り、転倒する寸前のソヨンをしっかりと抱きとめた。
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[Soyeon]
杏里さん、杏里さんですねっ……!?杏里さんですよね!?
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[Anri]
そうだよ、ソヨン、杏里・アンリエットだ!
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[Soyeon]
……ああ、よかったぁ……
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[Narration]
ソヨンは杏里の胸に顔をうずめた。杏里はその体の冷たさにはっとする。
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[Anri]
ソヨン……こんなにずぶぬれに……それに、あちこち体をぶつけてるじゃないか……まさか……ここまで目をつぶって?
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[Narration]
固く瞼を閉ざしたまま、ソヨンは頷いた。
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[Soyeon]
はいっ……杏里さんに逢いたくて……
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[Narration]
そんな少女の無謀をとがめるより、ずっとずっと強い感情の奔流が、杏里の胸中にあふれ出していた。
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[Narration]
この広大なプールの敷地を、目を閉じたまま抜けきる自信も、勇気も、杏里には無い。
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[Narration]
深みにはまり、溺れる恐怖に負け、引き返す以前に、絶対に目を開いてしまっただろう。
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[Narration]
あれほど水面を恐怖していたソヨンなら、なおさらのことだ。
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[Narration]
杏里の胸の奥はじんと熱くなった。
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[Anri]
……冷たかったろう……
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[Soyeon]
……無我夢中だったんです……天京院先輩の部屋にいたら、急に、胸がしめつけられるみたいに、心細くなって……
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[Soyeon]
気がついたら、部屋を飛び出していました……このまま杏里さんがいなくなってしまいそうな、そんな気がして……
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[Anri]
大丈夫。ボクはここにいる。星の海の下で、ソヨンを抱きしめてる。心配することなんて何もないさ。
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[Soyeon]
はい……よかった……あとで……天京院先輩に謝らないと……
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[Anri]
かなえさんは、ちゃんと解ってくれるよ……
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[Narration]
緊張がとぎれたのか、今になってソヨンはようやく体をふるわせはじめた。
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[Narration]
杏里はそんなソヨンの頭に手を置き、さっと上着を脱いで少女の肩へと羽織らせた。
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[Narration]
白い制服がふわりとうきあがり、天使の羽のように少女の背に舞い降りた。
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[Anri]
どう……もう寒くない……?
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[Soyeon]
はい……あったかい……。杏里さんに包まれているみたいです……
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[Anri]
くすっ……みたい、じゃないさ?もう本当に平気だから、目を開けてごらんよ。ソヨン。
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[Soyeon]
は……はい……
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[Narration]
ソヨンの睫毛の先がふるえる。ほんのうっすらと開きかけていたのに、またすぐに固くつむり直してしまう、少女の瞼。
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[Soyeon]
……ご……ごめんなさい……やっぱり……あたし……
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[Anri]
うん……いいさ……こうして、いつまでもボクの腕の中においで。
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[Soyeon]
……ごめんなさい……杏里さん。とても自分が足でまといになっているって、わかります。でも……
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[Anri]
いいよ、ソヨン。きみのしていることはちっとも間違ってなんかいない……
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[Anri]
キミとこの場にいられるだけで、ボクがどれだけ勇気づけられているか知れない。
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[Soyeon]
……はい……
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[Narration]
杏里はソヨンと同じように目を閉じた。
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[Narration]
抱き合う二人を、静かなせせらぎの音が包んだ。
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[Anri]
……ソヨン、あの時、牧場で聞きそびれてしまったことを、もう一度聞かせてほしいんだ……
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[Soyeon]
…………ハイ……
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[Anri]
ボクはキミを愛している。だから、キミを抱きたい。───キミは?
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[Soyeon]
…………っ……!
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[Narration]
ぴくっとソヨンが震える。
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[Anri]
無粋な制服ごしにじゃなく、じかにキミと肌を触れ合わせて、一つになりたい。キミが嫌なら、決して無理強いはしない。
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[Soyeon]
……でも杏里さん。あたしたち女同士です……
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[Anri]
……うん。確かに、大概の人からみたら、おかしな事かもしれない。でもボクは……ソヨン、キミの本当の気持ちを知りたいんだ……
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[Anri]
絶対に近寄ることのなかったこの場所へ、きみが来てくれた。それを、このボクがどんなに嬉しく思っているか……暗闇の中を、あちこち体をぶつけてまで……
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[Anri]
そうさ、ソヨン……時には盲目になることも必要なんだ。
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[Anri]
人の良かれという言葉に従っているだけじゃ、一歩も進めなくなってしまう時があるんだよ?
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[Anri]
ボクらは自由なんだ。この世の中に、しちゃいけない事なんて、本当は何もない。
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[Anri]
神も、法も、正義も、道徳も、この世のはじまりから在ったわけじゃない、誰かがそう望んで作っただけさ。
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[Anri]
ボクはこう、信じている。この世にしてはいけないことが在るとしたら、たった一つだけ───
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[Anri]
それは自分の愛に裏切りをはたらくこと……
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[Anri]
おのれの愛を裏切るのは、生まれてこなかったも同じさ。生きながら死んでいるも同じなんだ。
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[Anri]
キミを愛している。キミを抱きたい。キミの体中に、くまなくキスの花束を送りたい。
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[Anri]
自分の本当の心を見つめて……聞かせてソヨン……
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[Narration]
ソヨンは杏里を傷つけないよう、ごくゆっくりと、体を離しその場に立った……
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