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[Narration]
息せきながら追いついた杏里の鼻先で、恐ろしい音を立て扉が閉じられた。
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[Narration]
同時にがっしりと錠前が降ろされる。
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[Anri]
……ニキっ……!
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[Narration]
室内からは、バンッバンッと、ヒステリックに、両手で家具を叩きつける音が届いた。
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[Narration]
やがて、家具を叩く音に代わって聞こえてきたのは、雷鳴のような鍵盤の和音だった。
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[Narration]
壊れんばかりの、鍵盤の猛打は、まさしく嵐のようだった。厚い防音材を挟んで外にいる杏里さえ、その勢いにたじろいだ。
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[Narration]
何事かと、周囲の部屋から次々とお嬢様たちが顔を出す。
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[Anri]
……ニキ! ニキッ!!
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[Narration]
扉にすがる杏里の願いも、今度ばかりは聞き届けられることも無いようだった。
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[Narration]
いったい何本の腕があったら、これだけの音の洪水を作り出せるのだろう。ピアノは、ニキ・バルトレッティの一部となり、全身で絶叫していた。
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[Narration]
遠巻きに取り囲むお嬢様たちは、耳を聾する圧倒的な旋律に、恐怖の色を浮かべながら、またアンリエットが騒動を?と眉をしかめた。
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[Young ladies]
フォルテッシモ?(ごく強く)フォルテッシシモ?(できるだけ強く)
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[Young ladies]
……違いますわ、みなさん。これは、アディラート(激怒して)。
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[Narration]
お嬢様はしたり顔で説明する。
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[Narration]
やがて例によってPSが顔を出す。
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[Narration]
周辺住民から苦情が出ている。そう耳を押さえてがなりたてるPSに、杏里は逆に喰ってかかった。
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[Anri]
ボクだって、止めたいんだ!何とかしろって……どうすればいい!ボクに教えてくれよ!
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[Anri]
船内機器にまで、不調が出ているだって!?そんなのボクが知るもんかっ!!
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[Narration]
食器を下げる配膳車を押して前をとおりがかったイライザは、ニキの部屋の扉にもたれ、膝をかかえてうずくまっている杏里に気づいた。
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[Narration]
何オクターブにも渡って吹き荒れた嵐はすでに去り、とびらの向こうからは、とつとつとむせび泣くような、メロディが聞こえていた。
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[Narration]
杏里自身は、呼びかけ疲れたのか、寝入ってしまったようだ。その頬に、涙の跡を残したまま。
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[Narration]
ははぁ……と肩をすくめたイライザは、いったん姿を消すと、校章が入った毛布を手にしてまた現れた。
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[Eliza]
自業自得ですわね……杏里さま……せめて、お風邪を召しませんように……
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[Narration]
夜がふけ、毛布にくるまって座す杏里は、ピアノとは異なる物音に目を覚ました。
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[Narration]
扉が内側に開いた。
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[Narration]
よろめいた杏里が手をつくと、そこにニキの革靴があった。
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[Narration]
真っ赤に目を泣き腫らしたニキが、微妙に視線をはずしながら、こちらを見下ろしている。
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[Anri]
…………
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[Narration]
ニキが何を語るのか、杏里は床に腰をつけたまま、慎重に見守った。
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[Narration]
灰色の髪の少女は、足下に目を落としたまま、握りしめたこぶしを開いて、手話のサインを形づくろうとした。
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[Narration]
だが、何かを伝え、表現しようとするそのたびに、唇を噛みしめて、また手をこぶしへと戻してしまう。
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[Anri]
……まだ、怒っているのかい。
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[Narration]
ニキは小さくうなずく。
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[Anri]
……ごめんよ……ニキ。
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[Anri]
ボクも、何て言ったらいいのか……許してなんて言えないけど……
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[Anri]
ここにいるだけで、じゅうぶんだから……ただ……そばに居させてもらえるだけで……
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[Niki]
…………
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[Narration]
ニキはゆっくり首を振りながら、指をバツの字にあわせる。
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[Anri]
……そっか……ごめん……
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[Anri]
本当にずうずうしいお願いだったね……悪い……ボク、部屋に戻るよ……
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[Narration]
立ち上がった杏里のそでを、ニキがぐっと引いた。
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[Narration]
不思議そうに杏里が振り返ると、今度はぶんぶんと思い切り首を振りながら、ニキはまた指でバツの字を作る。
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[Anri]
どうしたの……? 違う……?
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[Anri]
ボクのことは、もう怒っていないの? さっきは確かにそうだったけど、もう充分、怒ったって……?
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[Anri]
腹を立てていたのは……自分自身に……?
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[Niki]
…………し……
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[Niki]
………り………た……
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[Anri]
ニキ……
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[Narration]
壮絶な努力を払い、ニキは言葉を口にのぼらせようとしている。
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[Narration]
杏里はそれを、おのれが奮い立つ思いで見守った。
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[Niki]
……た……し……
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[Niki]
……わ…た……し…………杏里…に……なり……たい……
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[Anri]
ボク……に……?
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[Narration]
ニキは、マッチを擦ると、アロマキャンドルに火を灯した。
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[Narration]
ほの暗い明かりだけになった部屋で、二人は長い影をゆらめかせながら向かい合う。
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[Anri]
この香りの中だと……落ちつくんだね……
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[Niki]
イラン…イラン…………と……いう…香り……です……
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[Anri]
……知っているよ……花々の中の花、という意味の、マレーの言葉が元なんだ。
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[Niki]
…知ら……なかっ…た……
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[Anri]
うん。ボクも、バスコロン以外で香りをかぐのは初めて。こんなに甘い香りだったんだね……
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[Narration]
濃密な甘い香りが充満していく。二人は知らなかったが、それは催淫剤としても使われることのある、愛のエッセンスだった。
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[Anri]
ニキ……ボクになりたいって……?
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[Niki]
…………っ……
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[Narration]
つい手を動かしてしまいそうになるニキは、意を決し、おずおずと両手を杏里に差し出した。
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[Narration]
その仕草に杏里は見覚えがある。
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[Narration]
杏里は頷き、その手を優しく包みこんだ。
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[Narration]
そうして深い安堵の息を吐くと、ニキは、またたどたどしき語りだした。
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[Niki]
杏里が……誰か……と仲良くして……いる……だけで……それだけで……とても苦し……く……なるの……
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[Anri]
……でもボクは、ニキだって……
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[Narration]
ニキはぶるぶると首を振った。
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[Niki]
ちがう……ちが……うの……
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[Niki]
そんなの……本当……は……いや……みんなを好き……に……なれ……たら……いいの……に……
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[Niki]
なのに……とて……も荒々し……い……気持……ちに……なってしま……うの……
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[Niki]
……で……もっ……!杏里…が……杏里……でなかっ……たら………わた……し……は……杏里……と……出逢わ……なかっ……た……きっと……
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[Niki]
杏里が……杏里でなか……ったら……杏里……は誰かの……もの……だった…………きっとッ!
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[Niki]
だか……ら……杏里は……杏里は誰……を……好きになって……も……いい…の…………
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[Narration]
ニキの顔は沈み、言葉はまた小さくなっていく。
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[Niki]
……杏里…は……悪く……ない……悪いの…は……杏里…を許せ……ない…………わた…し……
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[Anri]
ニキ………………
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[Anri]
ニキ……それは、違うよ。
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[Narration]
杏里の手の中で、ニキがこわばった。首をぎくしゃくさせながら、杏里をちらちらと盗み見る。
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[Narration]
また、おびえているのだ。
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[Anri]
そんなの……辛いだけだよ……
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[Anri]
……たとえば……正義は人の数だけあるという。けれど、だからって、いちいち他の人の正義を認めていたら、自分の正義なんか、なくなってしまうんだ。
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[Anri]
ボクは、それは違うと思う。
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[Niki]
……っ……
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[Narration]
ニキは自分が杏里に握らせた指をふりほどこうとした。
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[Narration]
しかし包み込んだその手は、鋼鉄のように固く閉じ、逃げることを許さない。
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[Niki]
……っ…………っ……!!
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[Anri]
ニキ……キミはボクを独占したいんだ……ボクの子猫ちゃんたちに、嫉妬しているんだよ……
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[Narration]
ニキの顔はかああっと赤くなった。無我夢中で腕を振りまわし暴れるが、杏里はやはり離そうとはしない。
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[Anri]
でも、その気持ちを……迷惑どころかボクは嬉しくすら思うのさ……残酷かもしれないけれど……本当なんだ……それが、杏里・アンリエットなんだよ……そして……
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[Anri]
ニキ……きみはとびきり、わがままで、焼きモチ焼きな子なんだ……
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[Anri]
それは全然いけないことじゃない……キミの、自然な魅力なんだ……隠して、押しつぶそうとしたりしなくていいんだ……
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[Anri]
逃げないで、その怒りをボクにぶつけて……ボクはね、もう、キミを絶対に逃がしたりなんかしないんだから……
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[Niki]
フッ! フーッ……フーッ……!!
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[Narration]
猫のように髪を逆立て、食いしばった歯から威嚇の唸り声をあげるニキ。
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[Narration]
どうしても杏里が腕を離さないと知ると、今度は自分の額を、何度も何度も、杏里の胸や顎へとぶつけてきた。
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[Narration]
杏里はそのつたない抗議を、じっと耐えながら受け止めていた。
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[Niki]
フっ……うっ……うううっ……!!
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[Anri]
ニ……キ?……痛っ……!
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[Narration]
突き上げたニキの頭突きで、何か言いかけようとした杏里の唇が切れた。
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[Narration]
ぽつり、ぽつりと床に血がしたたっていく。制服にも血がにじんだ。
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[Niki]
あっ……あん……り……ッ……!
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[Narration]
たちまち蒼白になるニキに、杏里は安心させるように微笑んだ。
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[Anri]
大丈夫だよ……このくらい……ちょっと血が出ただけ……
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[Niki]
あ……あっ…………
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[Anri]
あ……ニキ……
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[Narration]
ニキはそのまま、杏里にのしかかるように迫った。自然と二人の手はほどける。
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[Narration]
杏里は抵抗せず、押し倒されるように、しりもちをついた。またがるようにして身を乗り出したニキは、ぺろぺろと杏里の唇を熱心になめあげた。
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[Anri]
ん……くすぐったいよ、ニキ…………もう、大丈夫だから……
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[Niki]
ん……っ……ん……んんっ……
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[Anri]
ありがと……本当に、もう大丈夫だから、ね?ほら……血も止まった……
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[Narration]
ニキは杏里の肩に手を置いて、不安そうに顔を近づけた。
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[Niki]
ごめん……な……さい……杏里……わた…し……こんなふうに…すぐ……
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[Anri]
いいんだって……
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[Anri]
でもね……ニキ……もしキミが、本当に心の底から変わりたいと願うなら……ボクは、キミをいつでも支えるからね?
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[Narration]
揺るぎのない杏里の瞳に見据えられ、ニキは熱いものがこみあげてきた。
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[Niki]
わた…し……やっ…ぱり……杏里……みたいに……なりた……い……
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[Anri]
…………うん。
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[Niki]
大変……だと……思う……けど……でも…毎日……すこしずつで……いいから……変わり……たいっ……!
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[Niki]
明るい……自分に……誰とでも……おはなし……できる……自分……に……
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[Anri]
……うん……なれるよニキ。きっとなれる。
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[Anri]
きみが望む自分になれる日が、きっと来るさ!
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[Narration]
杏里もまた、ニキの肩にしっかりと手を置いて励ます。
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[Narration]
歓喜が全身に満ちわたり、痺れたようになったニキは、恍惚の表情で杏里に唇を重ねた。
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