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[Helena]
こんばんは、杏里。
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[Anri]
やあ、ヘレナ。いらっしゃい。入って入って?
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[Helena]
いえ、すぐ済むから。ここでいいわ。
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[Anri]
そんなみずくさい。ボクとヘレナの仲じゃないか。
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[Helena]
……何してるの?そんなにたくさんポットを持ち出して。
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[Narration]
肩ごしに部屋をのぞきこむと、床一面に幾つもの電気ポットが林立している。
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[Anri]
お風呂に入ろうと思って。お湯を沸かしてる。
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[Helena]
今日、サウナに行ったばかりじゃない!まだ入り足りないの?
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[Anri]
やっぱり一日の終わりは、お風呂でしめないと気持ちが悪くって。
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[Helena]
お風呂なんて、二日に一度で充分よ?よほど暑い日でもなければ。
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[Anri]
お国柄だね。まあ、これはさ、気分の問題なんだよ。
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[Anri]
ヘレナも一緒に入ろ?久々にさ。
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[Helena]
わたしは、そんな“気分”じゃないの。
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[Anri]
おや……
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[Anri]
不思議なんだ。いくら待てども、蛇口から水しか出てこないんだよ。それで仕方なく。
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[Helena]
知らないの?給湯系の設備にトラブルがあったのよ?
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[Anri]
あ、そうだったんだ。日頃の使いすぎが祟って、差し止められちゃったんじゃないかと、ヒヤヒヤしたよ。
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[Helena]
まさか。生活用のお湯はエンジンの廃熱利用だから、タダみたいなものよ。
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[Helena]
船上の学園でよかったわね、杏里。今ごろあなた、お風呂代だけで破産してるわよ。
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[Anri]
違いない。ヘレナも一緒にどう?
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[Helena]
遠慮するわ。
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[Anri]
エッチなことなんてしないよ?
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[Helena]
もっとマシな嘘をつきなさい、杏里。
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[Anri]
ヘレナみたいにかい?でも、ボクにもヘレナの嘘だけは、すぐわかってしまうのは……なぜかな?
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[Helena]
馬鹿……っ。
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[Helena]
実は……今さっき、PSに風紀委員の報告をしてきたの。
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[Helena]
それで、今回の暴行事件についても、再度かけあってきたのよ。
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[Helena]
そうだったのだけど……もう、来ないでくれと……
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[Anri]
……ヘレナにそんなことを?
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[Narration]
いつの間にか、PSは彼女を敬遠するようになっていた。
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[Narration]
彼女個人としては頼りに、また重き信頼も置いていたポーラースターセキュリティが、手のひらを返すように、彼女を突き放してしまったのだ。
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[Narration]
ヘレナもショックを隠しきれない様子で、肩を落とした。
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[Helena]
ごめんなさい……あたしもう、杏里の役に立ってあげられない。
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[Narration]
杏里はヘレナを片腕で抱いた。
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[Anri]
ヘレナ……気にしないで、ヘレナ。
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[Anri]
手伝ってくれたのは、とっても感謝してる。でも、ボクが一番嬉しいのは、役に立つとか、立たないとかじゃなくて、そのいたわりの想いなんだ。
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[Anri]
…………元気を出して。ボクの愛しいヘレナ。
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[Helena]
……うん。ありがとう、杏里。でも、ほんとにごめんね……
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[Narration]
重ねて励ましの言葉を口にしかけた杏里をさえぎり、ヘレナはほほえんだ。
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[Helena]
私もね、本当は結構くやしかったの。だからこっそり持ってきちゃった。
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[Narration]
ヘレナは薄手のアルミの袋を取り出した。
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[Anri]
それって……もしかして……
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[Helena]
アイーシャさんが保護された時に着用していた服の一部よ。幸い、まだPSが手をつけていないものなの。
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[Anri]
すごい! やるなぁヘレナ!
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[Helena]
誉めたりしないでよ。ちょっと自己嫌悪しているんだから……
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[Helena]
天京院さんに見せれば、何かわかると思うわ。
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[Anri]
うん、ありがとうヘレナ。
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[Anri]
……あ、いいこと思いついた。
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[Anri]
PSに処理されてないってことは、まだ犯人の匂いが残っているかもしれないってことだよね。
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[Helena]
……そうね?
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[Helena]
もし、また何かあれば、すぐ伝えるわ。だから杏里も捜査をがんばるのよ?
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[Helena]
船を降りて、私の目を逃れようだなんて考えたら承知しないから?
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[Anri]
ウィ!
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[Helena]
それとファンさんも。杏里が護ってあげるのでしょう? 彼女もしっかりしているようにみえて、そそっかしいところがあるから……気をつけて行動するのよ。
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[Anri]
ヘレナは優しいね。お母さんみたいだ。
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[Helena]
一言よけいよ。
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[Helena]
……大切よ?ファンさんも、杏里も、ね。
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