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[Narration]
三人と一匹は、まずアイーシャの部屋の近辺から探索をはじめることにした。
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[Narration]
アイーシャの部屋自体にはPSがまだ目を光らせていて、とても近寄りがたい。
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[Narration]
杏里が証拠品の封を開くと、中からは黒いレザー製の目隠しが出てきた。
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[Narration]
第四の被害者が身につけていたのと同じ、SMプレイで使う、本格的なものだ。
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[Narration]
ややよれて、表面はうっすらと汚れている。
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[Narration]
これが体臭を吸っていたとしても、すでに、皮本来の匂い以外には何も感じとれない。
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[Narration]
ただ、そのなまなましさと、目隠しから連想される行為に、ソヨンは悪寒をおぼえずにはいられなかった。
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[Narration]
杏里は目隠しをガーゼの上に置き、コローネの鼻先へゆっくりと寄せた。
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[Anri]
いいかいコローネ。よーく匂いを覚えて。
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[Anri]
アイーシャ以外に、きっと犯人の匂いが混じり込んでいるはずだ……
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[Narration]
コローネは神妙な顔つきで、目隠しの匂いをかいでいる。
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[Nicolle]
誰か、アイーシャの普段の行動について詳しい人はいないの? 
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[Anri]
ボクは全然わからないんだよ。
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[Nicolle]
そりゃそうだろ。なにしろ上級生だし。
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[Soyeon]
アイーシャさんでしたら、大図書館でお見かけしたことがあります。
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[Nicolle]
あたしは温室で見たことがある。ほとんどいつも一人でいたな、彼女。
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[Soyeon]
なんだか、お寂しそうでしたね……
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[Anri]
あとは当然、教室だよね。
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[Nicolle]
すると、すくなくともその三ヶ所とアイーシャの部屋については、行くだけムダになってしまうのか……
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[Anri]
とにかく、やるだけやってみよう。
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[Soyeon]
はい!
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[Nicolle]
イェッサー!
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[Narration]
そして、床に鼻を寄せながら歩き出したコローネに、くっついていった三人なのだが。
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[Nicolle]
もう、歩きくたびれたよ〜〜
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[Anri]
本当に、順繰りに回ってきちゃったなあ。まず教室に行って、図書館に行って、温室に行って……
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[Collone]
オンッ!
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[Narration]
想像通りの結果が待っていたようだ。
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[Narration]
一方、当人、もとい当犬は大得意だ。こんな時は広い船内が恨めしくなる。
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[Soyeon]
今度は生活区のほうへ向かっているみたいです。コロちゃん。
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[Anri]
きっとアイーシャの部屋に戻っちゃうんだ。きっとそうだ。
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[Nicolle]
いいかい、コロ!?アイーシャじゃなくて、犯人!犯人の匂いを捜すんだ!
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[Soyeon]
コロちゃん、お願い!
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[Collone]
ウォウ〜?
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[Anri]
なんでも、犬が人間の言葉を理解できるようになるのは、何億年も先らしいよ。
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[Nicolle]
そんなに待ってられない。ああもう、あたしの面目丸つぶれじゃないか。
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[Anri]
やっぱりちょっとムリがあったかなあ。
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[Soyeon]
コロちゃんは、頑張ってくれてます!
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[Nicolle]
それはそうなんだけど。ちょっと頑張りどころのピントがさ…………お?
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[Nicolle]
おいおい、コロ?
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[Narration]
また新たな匂いの痕跡を見つけたのか、コローネはさかんに鼻をひくつかせた。
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[Narration]
ずんずん歩いていくコローネは、やがてとある部屋の前で立ち止まった。
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[Collone]
………………オン!
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[Narration]
ニコルと杏里は顔を見合わせた。
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[Anri]
ここって……
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[Nicolle]
アイーシャの部屋……じゃないねえ。
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[Soyeon]
え、ええーっ!?ここは……あ、あたしの部屋ですよ……っ!
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[Anri]
だね。
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[Narration]
ソヨンは血相を変えて狼狽している。
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[Narration]
ニコルと杏里はそろって腕を組み、疑いのまなざしでソヨンを見た。
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[Soyeon]
ち、違います!あたしじゃ、ありませんっ!
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[Soyeon]
ホントなんです!信じてくださいっ!
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[Nicolle]
……ぷっ、くくっ。ホントにからかいがいがあるなー。
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[Soyeon]
ニコルさん!?
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[Anri]
いや、ごめん。もちろん、きみを疑ったりなんて。
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[Anri]
でも、どういうことなんだろ。
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[Narration]
コローネは爪先でかりかりと扉をかいた。
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[Nicolle]
コロが入りたがってる。
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[Anri]
ちょっといいかな、ソヨン。
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[Soyeon]
あ、はい。いま開けますから。
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[Narration]
扉の鍵を開けると、ソヨンはおやっと眉をひそめた。
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[Anri]
どうかしたの?
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[Soyeon]
扉がいつもより……軽いです……
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[Nicolle]
窓を開けて出たんじゃ?そうすると勢いよく開くだろ?
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[Anri]
窓を開けて……?……ソヨンが?
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[Narration]
ニコルはぺろりと舐めた指を、ドアの隙間に立てた。
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[Nicolle]
うん、風がある。
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[Soyeon]
い、いえ。そんなはずは……
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[Narration]
杏里の記憶では、ソヨンの部屋の窓はすべて閉めきられていたはずだ。
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[Narration]
海が視界に入らないよう、華やかなチョゴリや、厚いカーテンで遮られていた。
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[Anri]
……ちょっと変だぞ。
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[Soyeon]
す、すみません、杏里さん、ニコルさん……あたし……入れません……
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[Nicolle]
どうしたのさソヨン……怖いのか……?
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[Narration]
ソヨンは扉のノブを握ったまま、動けなくなっている。
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[Anri]
……わかった。ソヨンはここで、コローネと一緒にいてほしい。
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[Anri]
ニコル、行こう。
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[Nicolle]
そうこなくっちゃ。
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[Narration]
二人は息を潜め、ソヨンの部屋へと忍び込んだ。
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[Nicolle]
……誰もいないじゃん?ソヨンもおっかながりだねえ。
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[Anri]
しぃ……っ
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[Narration]
杏里はばたばたと風音のする方向に目を向けた。
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[Narration]
開いているはずのない窓が開放され、カーテンが海風にはためいている。
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[Narration]
二人は背中合わせになって、室内に目をくばらせた。
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[Anri]
ニコル、出口とバスルームへの扉を見張っていて。ボク、窓を見てみるから。
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[Nicolle]
了解。
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[Narration]
杏里は、はためくカーテンの影になった部分に気をくばりながら、じりじりと接近していく。
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[Anri]
……こんな時、探偵小説なら銃を構えて近寄るんだろうけど。
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[Narration]
杏里は壁づたいに、窓へとせまった。
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[Anri]
(お、しめた)
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[Narration]
途中、壁に立てかけられていたラクロスのラケットをつかむ。
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[Anri]
(よーし、これで……)
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[Narration]
ラケットをそろそろとのばし、カーテンを勢いよくめくりあげた。
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[Narration]
窓枠にかかっていたチョゴリがはずれ、風で室内に舞った。
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[Narration]
一瞬、それが人の姿にも見えひやりとした杏里だったが、予想したような侵入者の姿はそこにはなかった。
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[Anri]
…………ふぅ。
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[Anri]
風で開いたのかな……?
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[Narration]
そのまま、窓の外に頭を出しても怪しい人影などはなく、ポーラースターの白い舷側が氷原のように広がるばかりだ。
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[Nicolle]
わっぷ!な、なんだ? 見えないよ!
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[Narration]
杏里がさっと振り向くと、ニコルとチョゴリが、床の上でとっくみあっていた。
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[Narration]
風で舞ったチョゴリが、背後から覆い被さったらしい。
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[Anri]
ごめん、ニコル!今とってあげる。
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[Nicolle]
勘弁しとくれよ、もう!
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[Anri]
あはは……似合ってるよ、ニコル。
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[Narration]
笑いながらニコルに歩み寄った杏里は、突然、強く背を突き飛ばされた。
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[Anri]
……っ!!
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[Nicolle]
えっ? うひゃっ!
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[Narration]
ニコルを怪我をさせないよう、かろうじて身をひねった杏里は、苦しい姿勢で床に叩きつけられた。
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[Narration]
もつれはしたものの軽い転倒で済んだニコルが、ようやくチョゴリをはらいのけた。
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[Narration]
膝立ちになって、倒れた杏里にすがる。
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[Nicolle]
どうした! 杏里!
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[Anri]
だ、大丈夫……ちょっと、い、息が……
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[Narration]
「きゃあっ!!」「オンッ、オンッ!」
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[Narration]
届いた叫びと吠え声に、ニコルはがばっと立ち上がる。
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[Narration]
何者かが、扉から勢いよく廊下に飛び出したのだ。
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[Narration]
慌てて廊下に出ると、ソヨンが顔を押さえてその場にしゃがみ込んでいた。
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[Nicolle]
───ソヨンッ!?やられたのかっ!?
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[Soyeon]
ろ、ろあに……鼻をぶつけただけれすから……それより、コローれひゃんが……っ!
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[Nicolle]
えっ……? コロ?
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[Collone]
───オンッ、オンオンッ!
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[Narration]
コローネは猛烈なダッシュで、廊下を走り去った人影に追いすがる。
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[Nicolle]
ちょ、ちょっと待てーい!
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[Narration]
とにかくニコルも愛犬のあとを追って駆けだした。
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[Nicolle]
冗談じゃないぜ!このニコル様に走らせる気かよ!
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[Narration]
ニコルは髪をなびかせて走り出した。紐も結ばれていないバッシュが、ぶかぶかと調子のはずれたトランペットのような音を立てる。
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[Nicolle]
くそっ、コローネ!逃がすなよっ!
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[Nicolle]
喰らいつけっ!貴族の狩猟犬の誇りを見せてやれっ!
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[Narration]
オンオンオンッ! オンッ!
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[Narration]
湾曲した廊下は見通しがきかないところに持ってきて、さらに人影は、大通りから姿の隠しやすい枝道へと入ってしまった。
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[Narration]
こうなっては、コローネの声だけが頼りになる。
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[Nicolle]
ハァっ……ハァっ……!ちくしょうっ……!
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[Narration]
あっという間に息があがり、スピードが落ちるニコル。
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[Nicolle]
───おっ!ソヨンッ!?
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[Narration]
その脇に、鼻頭を押さえながら走るソヨンが追いついた。
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[Soyeon]
───どちらへ!
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[Nicolle]
……右! 右の通路だっ!
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[Soyeon]
すいません!先、行きます!
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[Narration]
ソヨンは廊下に反響するボルゾイ犬の声をがむしゃらに追った。
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[Narration]
しかし、その声もだんだん小さくなっていく。
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[Soyeon]
ハァッ…ハァッ……!
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[Soyeon]
コローネっ! だめっ!もう……もう戻って!
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[Soyeon]
だめよっ!もう充分だからっ!
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[Narration]
ソヨンはあらん限りの力をふりしぼり力走した。
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[Narration]
スピードを殺さぬまま、直角に曲がる通路の床を蹴りつけた。
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[Soyeon]
……あっ!
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[Narration]
走ることなど想定されていない廊下で、ソヨンは敷物に足を取られ、クラッシュしたレーシングカーのように、壁へ飛んだ。
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[Soyeon]
…………!!
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[Narration]
悲鳴をあげる間もなく、壁に叩きつけられる。
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[Narration]
だが、その小さな肩をがっしりと抱いた腕があった。
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[Soyeon]
あ……杏里さん!
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[Anri]
ウィ?
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[Narration]
杏里はソヨンを腕に抱いたまま、通路を駆け抜ける。
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[Anri]
近道したんだよ!きっとこっちに来るってね!
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[Narration]
得意げにウインクすると、ソヨンは思わずぼっと顔を赤らめる。
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[Soyeon]
あ、杏里さんっ!大丈夫ですからっ!あたし、自分で走れます!
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[Anri]
ヤーダ、降ろしてあげない。
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[Soyeon]
杏里さんッ!
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[Anri]
なんて言ってみたいところだけど、早くも腕がシビれてきた!
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[Narration]
ソヨンを降ろして、二人は併走する。
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[Anri]
さあ、絶対捕まえるよ!
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[Soyeon]
はい!
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