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【00:07:00】
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[Anri]
えっと、仕事中だったかい? イライザ。
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[Eliza]
そう言っても差し支えありませんけれど……ニキ様の付き添いです。
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[Anri]
え……ニキ?
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[Narration]
イライザの背後から、サウナ室の扉に体重をあずけるようにして、ニキが顔を出す。
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[Niki]
…………
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[Narration]
びくびくと見上げるような視線を、蒸気のこもる室内に向けると、寄りそって腰かける杏里とソヨンの姿が視界に入った。
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[Narration]
と、開きかけた扉はまたすすすと閉じてしまった。
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[Anri]
ニ、ニキ!
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[Narration]
思わず立ち上がった杏里の背に、ソヨンが声をかける。
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[Soyeon]
杏里さん、もう出られるんですか?じゃあ、あたしの勝ちですね?
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[Anri]
うっ!
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ど、どうしたらいいのさ!
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ニキを追いかけるとも!
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[Anri]
わかった!ソヨン、くやしいがきみの勝ちだ!
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[Eliza]
杏里様どこへ?
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[Anri]
ごめんね、ソヨン、イライザ。失礼するよっ! おやすみ!
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[Soyeon]
ハイ、おやすみなさい! 杏里さん!
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[Narration]
杏里の姿が消えて、パタンと扉が閉まると、イライザはやれやれと腰に手をおいた。
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[Soyeon]
ニキさん……やっぱりまだ、人前にあがるのが苦手なんですね。
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[Narration]
ソヨンが入学して以来、クラスメートのニキ・バルトレッティの顔を見たのは、数えるほど。このサウナで見かけたのも、はじめてだった。
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[Eliza]
……ええ。
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[Narration]
ソヨンの勘違いをイライザは特に訂正もしない。
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[Soyeon]
杏里さんやイライザさんみたいに、あたしもニキさんと仲良くなれればいいのにな。
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[Narration]
イライザはまぶたを降ろし首をふった。
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[Eliza]
……私にもまだニキ様は遠くに見えます。
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[Eliza]
心を通わせるというのは、難しいことですね。近づいたと思った心も、振り子のようにまたすぐ離れていきます。
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[Eliza]
好かれるより、好きでいつづけるほうが、ずっと、うまずたゆまずな努力が必要なのかもしれません。
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[Soyeon]
あの……失礼ですけれど、イライザさんは、杏里さんとは元クラスメートだったと、お聞きしています。
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[Eliza]
はい。
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[Soyeon]
お二人は以前から親しかったんですか?
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[Eliza]
杏里様ですか?いいえ? 大嫌いでした。
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[Soyeon]
……嫌いだったんですか?
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[Eliza]
ええ、それはもう。不愉快でなりませんでしたわ。
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[Narration]
そう言って、イライザはくすりと微笑んだ。
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[Eliza]
なにしろあの方ときたら───毎日、何かしら相手の良いところを見つけては、それはもう誇らしげに、語って聞かせるものですから……
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勝負続行
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[Anri]
あ、あああ……ニキ……行ってしまった……。
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[Narration]
ゆもじ姿のイライザが肩をすくめる。
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[Eliza]
ニキ様は気が変わられて、シャワーになさるようですね……。
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[Eliza]
どうぞ杏里様はご心配なく。私におまかせください。
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[Eliza]
こう見えても、私たち気が合うんです。
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[Narration]
職業的な微笑とも、本心からのものともつかぬイライザのほほえみ。杏里は戸惑いつつもうなずいた。
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[Anri]
う、うん。お願いするよ、イライザ。
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[Eliza]
どうぞ、ごゆっくり。のぼせすぎにご注意くださいね?
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[Anri]
は〜い……
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【00:11:30】
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[Anri]
…………むわむわむわ。
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[Soyeon]
…………むわむわ。
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[Anri]
……むわわわわわ。
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[Soyeon]
………………むわ。
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[Soyeon]
どうしたんです、杏里さん。言葉少なになって。
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[Anri]
死んだおばあちゃんが、おいでおいでしてる……
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[Narration]
また少女が二人、サウナルームに姿をあらわす。
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[Soyeon]
わ……
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[Narration]
思わずソヨンは息をのんだ。少女はどちらも異なる魅力をそなえている。
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[Narration]
かたや、白磁のごとく透き通る、すべらかで豊満な肉づきの体。
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[Narration]
かたや、鍛えられすらりと細く引き締まった、若鮎を思わせる肢体。そして、無造作にかきあげられた黒髪。
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[Helena]
あら、先客かしら?
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[Helena]
こんばんは?あの……どなたかしら……?
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[Narration]
ヘレナはしげしげと目をこらす。
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[Anri]
見つめられると照れちゃうなァ。
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[Helena]
……!
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[Chloe]
誰かと思ったら……それにソヨン?
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[Soyeon]
こんばんは!先輩たちも、今日はサウナですか?
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[Anri]
さっきから千客万来だね、いったいどうしたの?
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[Chloe]
知らないの? ボイラー室のトラブルで、部屋の浴室ではお湯が出ないのよ。
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[Anri]
ええ───ッ! そんなあ!
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[Soyeon]
ほんとに全然、気づきませんでした。
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[Chloe]
大浴場のほうも似たようなもので、それでこちらに来たのだけれど。てっきり杏里もそうなのかと。
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[Helena]
まさか杏里……?ソヨンさんを力づくで連れ込んで……
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[Anri]
やだなあ。ヘレナじゃあるまいし、そんなことしないよ?
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[Helena]
私はそんなことしません!
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[Chloe]
されるのよね。
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[Helena]
クローエ!?
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[Chloe]
……べつにサウナに同室したくらい、不謹慎にはあたらないわ。
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[Anri]
そーだよ。裸と裸のつきあいさ。立派なコミニュケーションだとも。
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[Chloe]
……ただ、杏里がその場に居るだけで、何もかもがイヤらしく見えてきてしまう。それだけ。
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[Soyeon]
い、いやらしく……そうなんですか?
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[Anri]
知らないけれど、ボクは今、自分がアイスクリームになって溶けてく気分……
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[Anri]
……ボクって何味?
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[Soyeon]
ええっと、チョコミントでしょうか?なんとなく。
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[Chloe]
グリーンティー。
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[Helena]
そんなほろ苦いのは、杏里には似合わないわ。安っぽいコーヒーキャラメル味でじゅうぶんよ。
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[Anri]
ヘレナは紅茶もケーキも甘〜いのが好きだものねぇ〜。
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[Helena]
ハッ……そ、そうじゃなくて。杏里? 見るからにのぼせ気味よ。
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[Helena]
いったい、いつからここにいるの?
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【00:16:50】
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[Anri]
そんな昔のことは覚えてないなァ……
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[Chloe]
勝手になさい。熱でダメになる頭でもなし。
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[Chloe]
さ、ソヨン。そのふやけた人は放っておいて、一緒に水につかりましょ。
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[Soyeon]
えっ、いえその、いまここを出るわけにはっ……
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[Chloe]
……なにかまずいことでも?サウナルームに込もりきりじゃ、ムニエルになっちゃうわよ?
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[Soyeon]
す、すみません! クローエ先輩の頼みでも、そ、それだけはっ!
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[Chloe]
ソヨンがそんなに薄情だったなんて。飼い犬に手を噛まれるとは、このことね。
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[Soyeon]
あわ、あわわ。
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[Helena]
ちょっと、何もそんなに……
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[Chloe]
いいえ。ここは、わたしとソヨンの信頼関係が試されているのよ。
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ソヨンピンチ!?
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がんばれクローエ
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[Chloe]
いくわよ、ソヨン。抵抗しても無駄よ。
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[Narration]
クローエはソヨンの腕をがっしりと掴んで引きずっていく。
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[Soyeon]
あ、杏里さん〜〜っ
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[Anri]
ごめん、ソヨン。ボクも辛いんだっ。村の暮らしを守るために仕方なく……わかってくれっ。
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[Helena]
ソヨンは牛や馬じゃないのよ。
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[Soyeon]
杏里さん、杏里さ〜〜んっ!いやぁ〜〜〜〜ッ!!
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[Anri]
ああ……あんなに扉に必死にへばりついて……ふがいないボクを許しておくれ。ううう……
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[Helena]
……あなたもそんなボロボロ涙を流すくらいなら、引きとめればいいでしょうに。
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[Helena]
そもそもなあに?二人で暑さ比べでもしていたの?
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[Anri]
ううう……そう言えなくもなくないことも……
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[Anri]
…………あ……れ?
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[Helena]
なに?
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[Anri]
ソヨンが……水に……?
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[Anri]
だ、ダメだよ!ちょっと待ったクローエッ!
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[Narration]
すでに遅く、サウナ室の曇ったのぞき窓の外で、盛大な水しぶきがあがる。
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[Helena]
まあ、クローエさんったら……ふざける時も荒っぽいんだから。
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[Anri]
ソ、ソヨンッ!
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[Narration]
サウナルームから飛び出し、観葉植物の垣根の向こうにあるプールへに急行した杏里は、その水面にひろがる波紋の中心へと目を注いだ。
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[Anri]
ソヨ───ンッ!
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[Narration]
すぐさま水中に飛び込もうと身構えた杏里の動きが止まる。
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[Anri]
……あれ……?
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[Narration]
水面に黒髪を広げ、くらげのように浮かび上がったのはクローエだった。
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[Narration]
半ば沈んだまま、恨めしそうに杏里を見上げている。
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[Anri]
…………無事かいクローエ?……ソヨンは?
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[Chloe]
……一本取られたわよ。
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[Chloe]
無我夢中で投げ飛ばされて……あとはあの通りよ。
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[Narration]
クローエの視線を追うと、プールサイドから出口まで一直線に、椅子やら机やら植物の鉢やらがなぎ倒されている。
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[Helena]
まるで竜巻でも通り過ぎたようね。
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[Narration]
ヘレナはあきれ顔で腕を組んだ。
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[Helena]
ちゃんと後かたづけしておくのよ?
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[Anri]
やっぱりボクがやるんだね。……わかってるよ。ボクの自業自得さ!ハイ! はーい!
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もちろんソヨンをかばう
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[Anri]
クローエ、悪いね。ボクとソヨンはもう、切っても切れない、かた〜い絆で結ばれているんだ。
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[Helena]
えっ……? どういうことなの?
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[Anri]
だってボクは、ソヨンのパートナーなんだから。
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[Soyeon]
……そ、そうなんです……その……杏里&ソヨン探偵社の誓いで……
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[Soyeon]
……そ、そうなんです……その……杏里&ソヨンリサーチの先輩後輩として……
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[Soyeon]
……そ、そうなんです……その……ポーラースター調査委員会の規約で……
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[Soyeon]
……そ、そうなんです……その……アソカ団の鋼鉄のオキテと申しますか……
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[Helena]
あ……そう。
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[Chloe]
だったらあなたも一緒に来なさい、杏里。その色ボケした頭を冷やすといいわ。
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[Anri]
うっ……
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[Soyeon]
じ、じつは、あたしたち強化特訓中なんです! 今日は虎の巻・火の章・湯けむり地獄旅情編の強化メニューを……
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[Helena]
今度はソヨンさん? また奇妙なことを吹き込んだわね? 杏里……
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[Narration]
杏里は首をぶるぶる振っている。
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[Soyeon]
ごめんなさい、クローエ先輩っ
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[Chloe]
……ちょっとからかっただけよ。悪かったわね、ソヨン。
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[Anri]
心配せずとも、ボクの愛は平等だよ?ヘレナもクローエも、ちゃあんと可愛がるさ。
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[Anri]
なんなら今晩にだって、しとねに愛を運び何度でも夢見心地に───わぷっ!
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[Narration]
スパーンと音を立て、杏里の顔面に手ぬぐいが張りついた。
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[Narration]
見るとヘレナが髪を乱し、胸を隠すのも忘れて仁王立ちしている。
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[Anri]
むーっ、むぅーっ!!
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[Chloe]
じゃあね。熱いもの好きも、ほどほどになさい。やけどしない程度に。
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[Soyeon]
は、はい! 先輩!
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[Chloe]
……ソヨン。サウナでくらい、肩の力を抜きなさい?……杏里みたいに年中、オツムがゆるみきっているのも、どうかと思うけれど。
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[Anri]
むむぅーっ!!
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