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あ~、暑い~。
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真夏の炎天下、正門の前に立ってるって、ちょっとした拷問だよね、これ。
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まぁ、太鼓櫓があるから、ちょっとした日陰はあるから、そこに逃げ込んでるんだけどさ。
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今日から、夏合宿。あたしたち放送部も、全日参加で、ラジオドラマの台本作り。まぁ、放送部で参加してるの、あたしたちだけだけどさ。
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あたしたちってのはもちろん、羽美と沙紗とあたしの三人。ま、ラジオドラマも三人で作るわけだしね。
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で、なんで、合宿の初日から正門なんかで立っているのかっていうとさ。
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双野沙紗
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暑いな。
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三山音七
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そだね~。
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沙紗と二人で、羽美を待ってるからでさ。
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羽美、ちょっと待ち合わせに遅れてる。
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正確には、朝の駅での待ち合わせには来なかった。ケータイで連絡してきたけど、なんでも、合宿に持ってくる荷物が多いから、家から車で送ってもらうことになったんだとさ。
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いったい、羽美ってば、合宿になにを持ち込むつもりなんだか。
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仕方ないから、あたしと沙紗で、先に学校に来て、こうして正門で羽美を待ってるわけだ。
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双野沙紗
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昨日はよく眠れた?
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三山音七
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おかげさんでね~。
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放送室で待ってればいいのにって思うけど、羽美が荷物、運ぶの手伝ってほしいって言うからさ。
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それに、先に放送室に入ってると、羽美が拗ねそうだし。合宿のスタートは三人一緒じゃなきゃって言い出してさ。
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あー、ウザい。まぁ、いい加減慣れたけど。
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双野沙紗
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なんか、おもしろいことあった?
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三山音七
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ん~、とくにはないな~。
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双野沙紗
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そっか。……暑いな。
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三山音七
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そだね~。
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あれ、何回目だ、この会話。
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ん~、羽美を待ってるだけだから、あたしと沙紗の組み合わせの場合、別に特に話すことなくても大丈夫なはずなのに。
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お互い、なんの会話もしなくても、ぼーっと待ってるだけでも、別に変じゃないでしょ?
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黙りっぱなしでも気にしないじゃん、あたしも沙紗も。会話がないと間が持たないなんてこと、ないよね?
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羽美がいたら話は別だけどさ。羽美はとにかく話しかけてくるから。
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そして、その羽美が今、たまたまいなくたって、それで会話がなくったって、別に気まずいわけでもないんだけどさ。あたしと沙紗なら。
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双野沙紗
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羽美、遅いな。
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三山音七
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そだね~。
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ああ、これはなんか、言いたいことあるんだな、沙紗。
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言い出すタイミング、計ってるんだろうな。ほんと、普段は死ねとかウザいとか言うくせに、こういう時は度胸がないんだから。
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素直になりにくいヤツだよね。まぁ、あたしもたいがいだけどさ。
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しょうがない、ちょっと助けてやるか。
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三山音七
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でも、まだもうちょいあるからね。羽美がこっちに着くって言った時間までさ~。
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双野沙紗
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あ、ああ……、そっか……。
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さて、これでどうかな?
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双野沙紗
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………………。
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ま、別に無理に言わなくてもいいんだけどさ。
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双野沙紗
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……あのさ、音七。
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三山音七
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ん~?
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双野沙紗
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その、ありがと。
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お、言ったか。そして、ありがと、かぁ。
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なんのつもりで言ったんだろうな。まぁ、言葉の通り、あたしに感謝してるんだろな。お礼で間違ってないと思う。こんな時に嫌味を言うヤツじゃないしさ。
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ありがと、かぁ。どれかなぁ。
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羽美への告白するのに、やっちまえって言ったことかな? それとも、夏休みに入る直前に、二人と話したことかな?
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それとも、その両方? うーん、まいったなぁ。お礼言われることじゃないんだけど。だってさぁ。
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ほんと、沙紗のこと、見てられんかったんだし。でもって、羽美と沙紗の勘違い、なんとかしたかったんだし。
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あたし別に、羽美と沙紗のこと考えて、言ったんじゃないんだよね。ただ、気になることがあると、よく眠れないからさ。
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自分の安眠のためだったんだよ。わかってくれないかなぁ、そのへん。お礼なんて言っちゃってさぁ。
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なんか、沙紗の顔、まともに見れないじゃん。
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三山音七
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ん。まぁ、気にしないでいいさ~。
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ほんと、気にすんな。今まで通りでいいからさ。
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双野沙紗
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うん……。
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あれ、沙紗の声も、ちょっと遠くから聞こえる。ああ、きっと沙紗も、こっちのこと、見てられないんだな。
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はは、羽美がいないとこうなのか、あたしと沙紗って。まぁ、悪くないけどさ。
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でも、早く羽美、来てくれないかな。あたしと沙紗の真ん中に入ってきてくれないと、この間、持たないよ。
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と、思ってたら。柿坂の方から、赤い軽自動車が登ってきた。あたしと沙紗の前で止まる。
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一木羽美
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お待たせ~!
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ほら、来た。羽美だ。
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一木羽美
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ごめんね! なんかいろいろ準備したら、すっごいことになっちゃってさぁ! ね、これ、運ぶの手伝ってよ!
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ああもう、いつも通りの羽美だ。てかさ、なにそれ、なんで一週間ちょっとの合宿で、クーラーボックス二つも持ってくるわけ?
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羽美の持ってこなきゃいけない荷物って、ノートPCくらいじゃなかったっけ? 台本作るのに使うさ。
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一木羽美
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ほら! 一人一個! わたし、自分の荷物、運ぶからさ!
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双野沙紗
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はいはい……。ったく、遅れてきて荷物持たせるのかよ……。
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ぶつくさ言いながら、沙紗が羽美のとこへ歩いてく。ああもう、こいつもダメだな。
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文句言いながらのくせに、なんだ、そのうれしそうな背中は。
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三山音七
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はぁ~……。
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あたしもその沙紗のあとについていく。羽美には聞こえないように、その背中に声を投げつける。
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三山音七
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ちゃんと二人っきりの時間も作ってあげるからさ。
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双野沙紗
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!?
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三山音七
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キスくらいは迫ってみれば?
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双野沙紗
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なっ……!
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はは、驚いた顔して振り返ってきた。うん、その顔が見れたから、ま、暑い中待たされたのもチャラにしよ。
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いらん気を遣わなくても、もう大丈夫だとは思ってる。羽美と沙紗、付き合ってるけど、あたしたち三人はちゃんと友達だ。
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夏合宿、少しは楽しくなりそうだな。ちょっとうるさいだろうけど、ぐっすり眠れそう。よかったよかった。
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