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なんだろう、なんだろう。この違和感、落ち着きの悪さは、いったいなに。
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確かに日数にしてみれば、ほんの三日。たった三日間。このくらい、ちょっとひどい風邪をひいたりすれば、学校休むことだってあるよね。
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でもわたしにしてみれば、どこか別の惑星に長いこと隔離されてたみたいな、そんな三日間。
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狛野比奈
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聖苗。
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なのに戻ってきてみたら、学校も、クラスも、みんなも、まばたき一つ置いたくらいにも変わってない。
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狛野比奈
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聖苗?
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牧聖苗
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あ、うん。
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狛野比奈
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どうかした? さっきからお弁当、全然、食べてないけど。
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牧聖苗
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う、うん。
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狛野比奈
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………………。
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牧聖苗
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………………。
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机を寄せて一緒にお弁当を食べてる、この比奈ちゃんとのやりとりにも、デジュ・ヴュってのを感じてしまう。
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牧聖苗
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あ、うん、なんでもないんだけどね。
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狛野比奈
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そう。ならいい。
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まぁ、比奈ちゃんだったら、なにごとにも動じない感じだし、変わらずに迎えてくれるかもって予感はあったけど。
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でもそれが、クラス全部がそうってなると、これ、どうにも落ち着かないんだけど。
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クラスの中はなんにも変わらない、ように見える。少なくとも見た目は。
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わたしが、停学になった前と後とで。なんにも変わっていない、みたい。
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停学の原因になったことについては、なんにも後悔してないし、家のみんなも納得はしてくれた。先生たちだって、わたしの言い分はちゃんと聞いてくれたし。
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けど暴力沙汰は暴力沙汰だよね。久しぶりに暴れちゃったって感じだし。
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どんな事情があるにしたって、そういうことをしでかした人には、白い目っていうのかな、そういうことになって当然、なのに。
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もっと腫れ物にさわるって感じになってもおかしくないのに。
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なのに、今のところ、それらしい感じも、ひそひそ話とかも全然聞こえてこないんだけど。
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だったらわたしも、なにも気にすることはないのかも。でも、なんだろ、このすわり心地の悪さったら。
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たぶんそれは、どんなに気にしないつもりでいても、やっぱりわたしのどこかに身構えるところ、あったから、なのかな。
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うん、ならこれはきっと、わたしの自意識過剰なのかも。引け目っていうのかな、これはそういう感情。
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狛野比奈
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あのね、聖苗。
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牧聖苗
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あ、うん。なに?
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狛野比奈
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聖苗が学校、来てなかった時に、園生せんせから聞いたんだけどね。
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牧聖苗
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う、うん。
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狛野比奈
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「当事者同士が手打ちにしたんだから、それで話は終わり。遺恨は無しが城女の伝統」
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狛野比奈
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なんだって。
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牧聖苗
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え……。
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ケンカ両成敗……、とはちょっとちがうよね?
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宵越しの銭は持たないとも、ちょっとちがう。えっと、なんて言えばいいんだろう。勝っても負けても恨みっこ無し?
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よくわかんない。とにかく。
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牧聖苗
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(わたしのあれが、理由のあることで、もうケリがついたことだから)
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牧聖苗
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(停学くらいで、いちいちクラスメイトのこと、特別に扱ったりしないってことなのかな?)
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でも、そう考えると、なんだかすごい、すっきりする。すっきりして、わたしの気持ちも落ち着いてくる。
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牧聖苗
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そっかぁ。
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牧聖苗
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(そう考えると、わたしにも、みんなにも、入学してからこの半年の間に)
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牧聖苗
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(この学校の、城女の伝統が、すっかり染みついてたってことになるのかな)
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牧聖苗
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(ふふ、それもなんか素敵)
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停学明けたばかりなのに、わたし、なんだか昨日までの三日間が急に誇らしく思えてきて。もちろん、ちょっと勘違いだとは思うんだけど。
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大好きな学校の気風が身についたって考えると、うれしくて、楽しくなってきて。
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一緒にお弁当を食べている比奈ちゃんに、そっと顔を寄せて。
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牧聖苗
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……いい学校だよね、ここ。
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いろんな気持ちが入っちゃって、出てきたのは、その一言。いきなり話しかけたのに、唐突だったかな? でも。
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比奈ちゃんは、別になにも慌てたりもしないで。口の中のご飯、飲みこんでから。
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狛野比奈
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ん。
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狛野比奈
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いい学校だよ、ここは。
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こちらも短い台詞。いつもとあまり変わらない表情だったけど、なんとなくわかる。うれしいって思ってるんだよね。
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そんな、比奈ちゃんの気持ちもこもった声、みたいな。
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牧聖苗
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(これって、もしかして。なんとなく、だけど。きっと比奈ちゃんにも、なにかいいこと、あったんだね)
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牧聖苗
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(ここで、この学校で)
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牧聖苗
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比奈ちゃん、もしかして、なにかいいこと、あったりしたの?
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狛野比奈
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ん、あった。
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比奈ちゃんは、別に気取りとかもったいつけとかもなく、わたしに答える。
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狛野比奈
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でも、内緒。
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前みたいに、それがなにかは教えてくれなかったけど。
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牧聖苗
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そっか、内緒なんだ。
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狛野比奈
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ん。
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でも、いい。友達だからって、全部を話せるわけじゃないもんね。
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狛野比奈
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聖苗も、いいことあった? 声、明るい感じ。
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牧聖苗
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うん、あったよ。……わたしも、内緒だけど。
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わたしだって、美紀さんとのことは、比奈ちゃんにだって簡単には話せないし。
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狛野比奈
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ん。よかったね、聖苗。
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美紀さんとのことは、わたしたちの胸の中にだけしまっておけばいいことだものね。
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秘めごと、って古めかしい言葉だけど、そういうことにしておきたいから。
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共有できる秘密、できない秘密、そんなコトを抱えこみながら、付き合っていけるのがいい友達だって、勝手かもだけどわたしは思う。
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そんな友達、比奈ちゃんだから、停学の間あれこれ考えていたことを聞いてもらいたい。
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牧聖苗
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ね、比奈ちゃん。
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狛野比奈
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ん?
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牧聖苗
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わたしね、お休みしてる間に考えたこと、あるんだ。聞いてもらって、いい?
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狛野比奈
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ん、いいよ。なに?
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美紀さんのこと、この学校のこと、友達って言える人たちのこと。みんなが大好きだから、いろいろ考えて、最後に思いついたのは。
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自分でもおかしいくらいに、無茶で大胆な結論だった。
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牧聖苗
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わたしね。
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牧聖苗
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この学校の学生会長になろうって思うの。
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比奈ちゃんの、次の言葉、表情を待つまでもなく。わたしは、彼女がどう答えてくれるのか。それは話した時から、もうわかってたんだけどね。
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