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家庭科室から借りてきた炊飯器が、炊きあがりを告げてる。
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立ち上がった結奈は、後ろにいたわたしに振り向いた。
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遠見結奈
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さて。始めましょうか。
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永谷恵
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うん。
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炊飯器の蓋を開けて、おひつがわりのボウルにごはんを移す結奈。
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見回せば、トレーには海苔、お皿には鮭のほぐし身、小皿にはお塩。なぜかふたつ分のお弁当箱。……準備万端ね。
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永谷恵
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(……なんだか、今になって緊張してきちゃった)
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遠見結奈
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はい、どうぞ。
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でも、ここにきてためらったってしょうがない。
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わたしは、ぴったりとくっつく。お弁当のお裾分けの時よりももっと。結奈の体に、自分の幽霊の体を重ねるくらいにぴったりと。本当に、ぴったりと。
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事の起こりは昼休み。廊下をぶらついていたわたしに、結奈が声をかけてきた。
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遠見結奈
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この間、ご近所からお米のお裾分けをいただいたの。すごくおいしかった。
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永谷恵
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へー。
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そんな話から始まって、わたしは他人事のように聞いていたんだけど。
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遠見結奈
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これでサチさんにおにぎりを作ってあげたら?
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永谷恵
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え? ええ……?
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遠見結奈
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私の体に憑けば握れるでしょう。それを、サチさんに食べてもらえばいいんじゃない?
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いきなりの提案にびっくりしちゃったけど、でも、もともとは、わたしが言い出したことだったっけ。
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サチさんにわたしの手料理をごちそうしてあげたい、おにぎりがいいかなって、ずいぶん前に、ちょっと言っただけだったんだけど。
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永谷恵
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(憶えててくれたんだ、結奈)
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もちろん、その提案、ありがたく受けることにした。
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永谷恵
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先輩孝行ね、大変よろしい!
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なんて、偉そうにして。
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永谷恵
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(料理なんてほんっとーに久しぶりね)
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仕方ないし、当たり前のことだけど、やっぱりちょっと不安。
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うまく握れなかったらどうしよう。こっそり食べて、なかったことにしちゃおうかな。それも悲しいけど。
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そんなことを考えながら、まずは手を濡らして水を切る。お塩を手のひらに置いて、と。
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永谷恵
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(この、ごはんを乗っける瞬間が熱いのよねぇ)
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おにぎりなんて簡単なんだけど、それがいちばんの難関。我慢すればいいんだけど、手になじむまでの熱さがちょっと苦手。
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永谷恵
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えいっ。
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半個ぶんのご飯をしゃもじですくって、手のひらへ。
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永谷恵
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(熱っ……)
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永谷恵
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(……くない?)
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あれ? そんなに熱くない。自分で作った時は何度か取り落としちゃったくらいだったのに。
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永谷恵
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結奈ってもしかして、手の皮厚い?
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遠見結奈
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慣れてるの! あと、冷めやすくするために、ボールに移したのよ。
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あ、ああ、そうなんだ。そういう工夫もあるのね。
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永谷恵
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(ええと……、次は)
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軽い握りで下半分の形を作って、ヘコませて、そこに鮭を乗せて。
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もう半分のご飯を乗せて、手のひら全体で三角に握る。
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外はぎゅっと、内側は柔らかくなるように念じながら。この力加減が難しいのよね……。
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あとは海苔を巻いたら、1個目完成!
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永谷恵
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(うーん……)
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できたことはできたけど、なんか縦長? 下の手だけに力が入っちゃったのかな?
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遠見結奈
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大丈夫よ、材料は4個ぶん用意してあるから。
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永谷恵
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な、なによ。べつに失敗したわけじゃないわよ。
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遠見結奈
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でも恵、満足してないでしょ。
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永谷恵
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う……。
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なんだか、見透かされたみたいで、ちょっと腹が立つ。その通りだし。
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永谷恵
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で、でも、今のでけっこうつかめてきたわ。次は大丈夫!
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微妙な力加減を思い出しながら、2個目。
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完全に勘を取り戻したのか、自分で意識するより先にテキパキと指先が動いて、3個目が完成。
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永谷恵
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(うんうん、なんだか前よりうまくなってるみたい)
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まぁ、しょせん、おにぎりなんだけど。もともと込み入ったものを作れるわけでもないし、これだって上出来だわ。
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遠見結奈
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……意外とちゃんとできるのね。もっと手助けした方がいいかと思ってたんだけど。
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永谷恵
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……結奈、それって失礼じゃない?
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遠見結奈
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そう? ごめん。
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ま、わからなくはないけど。
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結奈にしてみれば、最初の不器用な動きには、けっこうハラハラさせられただろうし。自分の体だし、結奈、料理上手だから、そういうのわかっちゃうだろうし。
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……とかなんとか、複雑な気持ちを抱えながらも、最後の一個が完成。材料もぴったり使いきった。
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遠見結奈
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お疲れ様。きれいにできたわね。
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永谷恵
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えへへ。ざっとこんなもんよ!
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おにぎりを入れるためにふたつのお弁当箱を引き寄せたところで、結奈の意図が伝わってきた。
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形のいい三個目、四個目を、サチさん用のお弁当箱に。
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やや不格好な一個目、二個目は結奈が持ち帰る用のお弁当箱に。
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勝手がわからずに何個か失敗すること、見抜かれてたのね。ちょっと複雑だけど、まぁ、ありがたいわ。感謝しといてあげる。
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永谷恵
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ほんとに、準備いいわね。
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遠見結奈
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まあ、性分だし。
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さらりと返す結奈。
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永谷恵
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(そういうこと、さらっと流せるようになったのね。前はすっごい怖い顔してたくせに)
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そんな結奈の変化もうれしい、うん。まぁ、そんなことわざわざ伝えるのも照れくさいから、直前で結奈の体から離れる。
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永谷恵
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………………。
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後片付けに入る結奈の背中を見ながら、わたしは思う。
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今回のこれ。わたしのためってのもあるだろうけど、結奈の気晴らしでもあったんだろうな。
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比奈ちゃんのことで、相当混乱してるみたいだし。
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そんなことを考えていたら、顔に出ていたみたい。わたしのほうをちらりとうかがった結奈が。
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遠見結奈
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……なんとかするから。
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ぼそっと言った。
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永谷恵
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(結奈……)
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知り合って半年しかたっていないのに、この察しのよさ。
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人の気持ちに誰よりも敏感で、だからこそ脆いだなんて、……神様の配分って底意地が悪い。面倒な子にしちゃったものだわ。
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永谷恵
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あ、当たり前でしょ。結奈がなんとかするしかないんだから。
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それ以上に、わたしのこんな言い方も意地が悪い。ほんとはもっとちがう言葉を選びたいのに。
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永谷恵
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まあ、でも……。
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永谷恵
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……ありがと。
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人を気遣える結奈、それを行動に移せる結奈は、とってもいいと思うよ、……なんて、恥ずかしくって言えたもんじゃないわ。これで精一杯。
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遠見結奈
>
うん。
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結奈は短く返事をする。
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道具を片付けて、テーブルの上をきれいに拭いて、最後に弁当箱を巾着に入れる。
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遠見結奈
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あったかいうちに持っていきましょ。サチさん、今どこ?
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……なんとなく、その様子を見てわかった。きっと、結奈にはわたしの言いたいこと、伝わってるんじゃないかなって。
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こういうのって、いい友人っていうのかな?
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永谷恵
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この時間なら、慰霊樹のところだと思う。
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歩き出した結奈の横に並びながら答える。
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永谷恵
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(サチさん、おにぎり喜んでくれるかな)
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今の最大の心配は、このこと。結奈への心配と同じくらいね。
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