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稲本美夕
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茉莉!
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正門のそば。茉莉はのんきに手を振っていた。向かってくる私が、なんでこんなに急ぎ足でいるのか気にもしてない感じで。
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網島茉莉
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あ、来た来た。やっぱ、飛んでくると思った。
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稲本美夕
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当たり前でしょ!
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やっぱり、確信犯だったのね。
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終業式の後。顧問の先生のところに、夏休み中の部活と合宿のことについて聞きにいっていた時のこと。
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ケータイに茉莉からメールが届いた。正門のところで待ってるから、一緒に帰ろうって。
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それはいつものこと。でも、メールの最後に入ってた文字が。
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「アイシテル」って。
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職員室を出て、そのメールを確認した瞬間、私は駆けだしていた。廊下、走れないからできる限りの早足で。競歩じゃないのよ!
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やっぱり飛んできた? 当たり前でしょ!
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稲本美夕
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どうしてこんなことするのよ!
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網島茉莉
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どうしてって……。いやつい、本音が出ちゃったっていうか、伝えたかったっていうか……。
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稲本美夕
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こういうことしないでって言ったでしょ!
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網島茉莉
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わ、わかってるけどさ。ちょっと待たされてたから、すぐに美夕に会いたくなっちゃってさ。
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稲本美夕
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そんな言い訳、通じると思ってるの!? だいたい、待たせたことだって、茉莉の代わりに先生のところに行ってたのよ、私!
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網島茉莉
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そうだけどさぁー。
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稲本美夕
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ルール違反よ、茉莉。
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網島茉莉
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んー、またそれ?
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稲本美夕
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またもなにもないわよ!
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メールみたいな、残る形でこういうこと書かないってルールなのに!
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稲本美夕
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メール、茉莉の、消して。
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網島茉莉
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え、ええ!?
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稲本美夕
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消して。削除して。
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網島茉莉
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うー……、美夕のはもう消しちゃったの?
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稲本美夕
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消したわよ! 茉莉のも消して! 今、すぐ!
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網島茉莉
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んー、もったいないなぁ。
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稲本美夕
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もったいなくない!
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大声を出しそうになるのを、私、必死にこらえてる。
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なのに、どうして? どうして茉莉はそこまで真剣に考えてくれないの?
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稲本美夕
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消して! こういうの、残しておかないで!
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網島茉莉
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だからさ、そんなに生真面目に考えなくてもいいでしょ? 美夕はどうしてそんなに気にするのかなぁ。
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稲本美夕
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あなたがなにも考えていないだけでしょ! もっと真剣に考えてよ!
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なんで、私だけこんなに必死になっているんだろうって考えてしまう。
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でも、大事なことだから。私はちゃんと考えてルールを決めたの。
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茉莉のためなのに。茉莉と私のためなのに。
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網島茉莉
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真剣に考えてるつもりなんだけどなぁ。はいはい、どうせあたしはいい加減ですよーだ。
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稲本美夕
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そういうこと、言いたいんじゃないの! もう、私はけっこう、茉莉の気楽なところ、助かってるのに……。なによ、私ばっかりムキになっててバカみたいじゃない。
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そんなふうに思わせないでよ。
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網島茉莉
>
あ、美夕がちゃんと考えてくれてるから、あたしも思いっきりやれてるんだよ? そういうふうに自分を卑下するのやめなよね。
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稲本美夕
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茉莉がそうさせてるんじゃない……。
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いやだ。自分が惨めになる。
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網島茉莉
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もうちょっと自信持ってもいいと思うんだけどな。あたし、美夕のそういうとこ、大好きなんだから。
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稲本美夕
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ちょっと! そういうこと、こういう場所で言わないでって言ってるでしょ!
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私が必死になってること、それを茉莉がわかってくれないのが、悔しい。どうしてよ。
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網島茉莉
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二人っきりの時にも言ってるけど?
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稲本美夕
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そんなの知ってるわよ!
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どうしてわかってくれないのよ。
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こんなまるっきり痴話喧嘩、これだって誰かに見られたらどうしようって思ってるのに。
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泣きたい気分。でも、こんなとこで泣き出すわけにもいかない。そこに。
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狛野比奈
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茉莉先輩、美夕先輩。
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え? 比奈? どうしてここに……、って、当たり前よね、ここって正門のすぐそばなんだし。
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稲本美夕
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あ、ひ、比奈。今、帰り?
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狛野比奈
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ん。
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どうしよう、ごまかした方がいいのかな? 今の、聞かれていたりしたのかな。
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そんなあせっている私のことなんか、知りもしないって感じで、茉莉が。
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網島茉莉
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もー、聞いてよ、比奈! 美夕ったら頑固でさぁ!
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比奈に大げさに泣きついて見せる。
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稲本美夕
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ちょっと茉莉! 後輩になに言ってるのよ!
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網島茉莉
>
少しは比奈の素直さとかわいさ、わけてあげてくれない?
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抱きつきそうな勢いで。ああ、もう、ほんとバカらしい。さっきまでの自分の必死さもバカらしい。
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そして、比奈にこんなこと言う茉莉も。なにもかも。そんな気分になって、私も比奈に泣きついた。いろんなことをごまかしながら。
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稲本美夕
>
茉莉の方こそ、比奈のしっかりしたところと、余計なこと、言わないところを見習うべきでしょ。
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網島茉莉
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あーもう、ほんと美夕ってば口うるさいんだから。いいよ、比奈、今日はあたしと一緒に帰ろ。こんな頑固者、置いてっちゃおう。
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稲本美夕
>
ちょっと! 比奈、茉莉に付き合ってるといい加減が移るわよ。私と一緒に帰りましょ。茉莉はそこでしばらく反省してなさい。
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網島茉莉
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えー! 美夕、こんなかわいい後輩を独り占めする気!?
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稲本美夕
>
あなたの悪いとこ、見習ってほしくないのよ!
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なにを、言い争っているんだろう、私たち。比奈は全然、関係ないのに。
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そうは思っても、なぜか、退く気になれなかった。私も茉莉のレベルにいつの間にか合わせていた。
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網島茉莉
>
比奈! いいからあたしと一緒に帰ろ!
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稲本美夕
>
私と帰りましょ! ね、比奈!
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比奈の顔、いつもと同じよう。困っているようにもあまり見えない。私たちのこと、見比べるわけでもなく、同時に見上げていて。
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狛野比奈
>
んー……。
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網島茉莉
>
比奈!
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稲本美夕
>
比奈!
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同時に名前を呼んだら……。
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比奈はちょっとだけ、体をずらすように移動して。
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狛野比奈
>
結奈ねぇと帰る。
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そこには、結奈さんがいて。比奈はぴたっと結奈さんのそばに。
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網島茉莉
>
ええ!?
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稲本美夕
>
ちょ、ちょっと比奈!
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結奈さん、いたんだ。今、気付いた。あんなこと言い争いしてる私たちのこと、見てたのかな。
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その後の、比奈に詰め寄ってるところは、当然、見られていたわよね。
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うー、気まずい……。
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私はバツが悪くなって、ただ、比奈と結奈さんを見つめていた。でも、それは比奈の声が返ってくる短い間だけで。
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狛野比奈
>
だって、先輩たち、新町の方でしょ。
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狛野比奈
>
帰り道、ちがうから。
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網島茉莉
>
あ。
>
稲本美夕
>
あぁ……。
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あ、そっか……。比奈の家は確か、八津岸の方。帰り道は椿小路になるんだから、駅に向かう私たちは当然、逆の方向。
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はぁ……、なんか、一気に力が抜けちゃった……。
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狛野比奈
>
それじゃ、失礼します。
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網島茉莉
>
あ、うん、じゃあね、比奈ちゃん、結奈ちゃん。
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稲本美夕
>
気をつけて帰ってね。結奈さん、合宿、お願いね。
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遠見結奈
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あ、はい。えっと、それじゃ、失礼します。
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比奈と結奈さん、ぺこって私たちにお辞儀して、正門を出て行く。
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稲本美夕
>
はぁ……。
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ため息が出た。なにしてるんだろう、私。
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網島茉莉
>
はぁ……。
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ほとんど同時、茉莉もため息をついて。思わず、お互い、顔を見合わせて。
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網島茉莉
>
……帰ろっか。
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稲本美夕
>
ええ。
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ここまで急いで来た理由も、茉莉に対する苛立ちも全部、抜けていっちゃった。
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網島茉莉
>
メール、ちゃんと消すから。
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稲本美夕
>
うん。お願い。
>
いつものように、二人で並んで歩く。正門を出て、駅の方、柿坂へ。
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稲本美夕
>
ごめん、私も言い方、きつかった。
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網島茉莉
>
ううん、いいよ。あたしもつい、ふざけちゃったし。ごめん。
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稲本美夕
>
ん、もういい。わかってくれたら、それでいい。
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網島茉莉
>
うん。
>
いつものように。茉莉の隣を歩く。
>
ずっと、こうして歩いていれたらいい。茉莉もそう思ってくれたらいい。
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それだけで、いいのに。
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