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「え? ほんと? そんなとこにアイテムあったの?」
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「ほんと、マジ。あれ、絶対見つからないようにしてあるよねー」
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「それ、どこ情報?」
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「ウィキ」
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「おのれ裏切り者~。一周目はウィキ見ないって言ってたでしょぉ?」
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そんな話し声が聞こえてくる。
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まだ、2階の大座敷でおしゃべりしてる子がいるのかな? まぁ、まだ下校時間まであるから、悪いわけじゃないんだけど……。
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でも、夏休み前テストも週明けにある。先生としては、ちゃんと勉強して臨んでほしい。ここは注意しておかないと。
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園生月代
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いつまでも残ってるのは誰?
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大座敷への廊下を渡り、のぞき込む。そこには……。
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剣峰桐
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あ、月代ちゃん。
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阿野藤
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月代ちゃんだ~。
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確か、もう6時を過ぎているはず。それでも、夏のお昼は長くて、この時間になってようやく、陽射しは夕日になって、大座敷に射し込んでいた。
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秋よりも色が強いわけじゃないけど、それでも赤い夕日が、大座敷に入ってきていて……、そこに座っていた二人を、剣峰さんを同じ色に染め上げていた。
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園生月代
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あ……。
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また、だ……。
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また、なんだろう、どうしてだろう。剣峰さんの姿を、見た、瞬間……。
>
すごい、ドキッとした……。一瞬、見とれちゃうくらい、きれいに見えた……。
>
園生月代
>
………………。
>
阿野藤
>
どうしたの? 月代ちゃん。
>
剣峰桐
>
月代ちゃん? なに、ぼぉっとしてんの?
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園生月代
>
え? あ、う、うん……。
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ほんとに、ぼぉっとしてた。剣峰さんから目が離せなくなってることに、声をかけられるまで気が付かなかった。
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どうして、だろう……。
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園生月代
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ふ、二人とも、時間、わかってる? もう6時過ぎてるのよ?
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阿野藤
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ええ!? あ、ほんとだぁ。
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剣峰桐
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うわ、ずいぶん長いこと、話してたんだ。
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阿野藤
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盛り上がってたからねぇ。
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園生月代
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二人とも、部活はないんでしょう? テスト前なんだから、部活のない学生は、なるべく早く下校するようにって言われているはずよ。
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剣峰桐
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しまった。部室で話してればよかった。
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園生月代
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ダメ。今日は数理部は部活ありません。
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阿野藤
>
顧問の先生がそう言ってるんだから、ダメだよねぇ~。
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剣峰桐
>
ちぇー。でも、そろそろ帰ろっか。
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阿野藤
>
うん。さすがにちょっとおしゃべりしすぎたね~。
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園生月代
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帰ってちょっとでも勉強しなさい。一日だけでも、ちゃんとしたテストなんだから。
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剣峰桐
>
は~い。でも、なんで夏休みの直前にテスト、わざわざやるのかなぁ。
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阿野藤
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楽しい夏休みの直前なのに、テンション下がっちゃうよねぇ。点数悪かったら補習もあるしねぇ。
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園生月代
>
夏休みを前に、気を抜かないようにするためよ。採点する方だって大変なんだからね?
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剣峰桐
>
先生もそんなにがんばんなくていいんだよ?月代ちゃん。
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阿野藤
>
そうそう。月代ちゃん。
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園生月代
>
もう、二人とも! ちゃんと先生って呼びなさい!
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剣峰桐
>
はーい、月代ちゃん先生。
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阿野藤
>
わかりましたぁ、月代ちゃん先生。
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園生月代
>
もう……。
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なめられてるとは思わないけど、ちょっと親しまれすぎちゃってるかなぁ。みんなのこういう態度、嫌いじゃないんだけど、もうちょっと、こう……。
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もう少し、背も高くて大人っぽく育ってくれたら、こういうこともなかったのかなぁ。
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園生月代
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はいはい。二人とも、今日は帰りなさい。テスト勉強、がんばるのよ。
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剣峰桐
>
はーい。じゃあね、月代ちゃん。
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阿野藤
>
先生、さよなら~。
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園生月代
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はい。気をつけて帰るのよ。……二人とも。
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はーいって返事とともに、二人がカバンを手にとって、大座敷から出て行く。
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剣峰さんが、私の隣を通っていく瞬間、また、前みたいにぎゅっと抱きついてくるかなって思ったけど……。
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剣峰桐
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……またね、月代ちゃん。
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そう言っただけ。それだけで、剣峰さんは出て行ってしまった。
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園生月代
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………………。
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二人がいなくなった大座敷。私だけが残っていて。まだ、夕日が畳を赤く染め上げている。少しずつ、暗くなっていくけど。
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園生月代
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はぁ……。
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ぺたんと私は、その場に座り込んだ。大座敷に置かれている机に突っ伏したら、ため息が出た。
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園生月代
>
ちょっと、さびしいなんて思っちゃった……。
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園生月代
>
勝手だな、私……。
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剣峰さんにあんなこと、言ったのは私なのに。それなのに。
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園生月代
>
……また……。
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見とれてた、そう、表現するのがふさわしい。目を奪われてた。心を奪われてた?
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こないだと、同じ、今日も。ここでこうやって座って、話していた剣峰さんに、私……。
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園生月代
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見とれてた、よね……。
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夕焼けに染まる部屋の中にいた、剣峰さんが、すごい、きれいに見えた。教え子なのに、学生なのに、そんなふうに見られなかった。
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剣峰さんが、とてもきれいで素敵な女の子に、見えた……。
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その姿を見た時に覚えたもの、表現するなら、もう、胸の高鳴りとしか。なんで……?
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園生月代
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はぁ……。
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また、ため息をつく。さっきまで彼女がいた場所、机に突っ伏して。
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そして、思い出す。さっきみたいな気持ちを覚えた、あの時のことを。
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それは、まだ、私が学生だったころ。今の剣峰さんとちょうど同じころ。
>
学校でいちばん、仲のよかった友達から、私は告白された。
>
園生月代
>
あれは、びっくりしちゃったなぁ……。
>
ほんとに寝耳に水で。彼女が自分を好きだったなんてこと、気付かなかったし、女の子同士で好きになるなんてことも、考えたことなくって。
>
私のことが好きだと伝えてくれた友達に、付き合ってくれるって聞かれて。
>
園生月代
>
なにも考えられなかったなぁ……。
>
その場で返事なんてできるわけなくって。
>
なんとか、返事を待ってもらうことにして。家に帰る間中、そして帰ってからもずっと、なんて返事をすればいいのかを考えた。
>
考えて、考えて……、全然、わからなくて……。
>
園生月代
>
明日、返事をするって言ったのに、寝込んじゃったんだよね……。
>
そう、熱を出してしまった。でも、熱に浮かされながらも、考えて。
>
私は、彼女のこと、どう思っていたんだろうって。もちろん、恋人にしたいとかそんなこと、考えてなかった。
>
いちばん、仲良しだったのは確か。でも、それで私は、彼女の恋人になれるんだろうかって。
>
そういうふうに、好きって思えるのかって。
>
熱が引かなかった三日三晩、考えた。ずっとそんなこと考えてたから、熱が下がらなかったのかもしれない。
>
そして、やっと、熱が引いて、学校に行って。やっと、自分の中で答えも決めて。
>
彼女のことを、好きなのかもしれない。好きなんだと思う。だから、OKしようと思って、いたんだけど。
>
園生月代
>
勘違い、か……。
>
そう。私が返事をする前に、彼女はそう言ってきた。「こないだのあれ、忘れて? なんか、勘違いみたいだったから」って。
>
園生月代
>
あれは……、ショックだったなぁ……。
>
彼女、笑ってた。もちろん、冗談で私に告白したわけじゃないと思う。でも、彼女にとっては、その勘違いって笑ってすませることだったんだ。
>
それを、私は三日、寝込むくらい、まじめに考えてて……。
>
彼女の言葉を聞いた瞬間、私はまた、熱が出てきたような目眩に襲われた。実際、また熱を出して、学校を休むことになったし。
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そして……。
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園生月代
>
それ以来、わからなくなっちゃったんだ……。
>
園生月代
>
誰かを好きになるって、こと……。
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彼女を責める気は少しもない。今でもいい友達でいるし。大学を出て、すぐに結婚しちゃったけど、時々、連絡は取るし。
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ただ……。
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彼女とのことが、私に、恋愛ってことをわからなくさせたのは、きっと、確か。
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園生月代
>
はぁ……。
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恋愛として、誰かを好きになるって、どういうことなんだろう……。どういうふうに好きになったら、それは恋愛なんだろう……。
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さっき……、剣峰さんの姿を見た時に感じた、気持ち……。
>
あれって、いったい、なんだろう……。もしかしたら、あれが……。
>
誰かを好きになるってこと、なのかな……。
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園生月代
>
だとしても……、ダメだよ、そんなの……。
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園生月代
>
剣峰さんは学生で、私は先生なんだし……。
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