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放課後。いつもの放送室。いつもの三人。
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あたしがいて、羽美がいて、音七がいる。そう、いつもの放課後。
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一木羽美
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ねぇ、やっぱこれ行こうよ、絶対おもしろいって。
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双野沙紗
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だから、別に行ってもいいって言ってるだろ。
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一木羽美
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じゃぁ、あとは音七だ。ねぇ、音七、一緒に行こうよ~。
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三山音七
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ん~……。
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一木羽美
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あーもう、また寝てる! こら、起きなよ、音七! 話聞いて!
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懲りもせず、羽美は音七を起こしにかかる。もうほっとけばいいのに。
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いつも騒がしくあたしたちを引っ張り回す羽美、いつでも眠そうで、実際、しょっちゅう寝てる音七、そして、冷めたフリをしてそれを受け流してるあたし。
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ずっと三人、一緒だった。この学校に入る前から、そして、この学校でも。
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始まりは中学の時。たまたま三人、同じクラスになった。それまでは、顔も名前もお互い知らなかった。
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話しかけられるまで、羽美のことなんか知らなかった。それが、始業式が終わって、新学年最初のホームルームが終わって、突然。
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羽美が話しかけてきた。すでに一段階目の人格形成が終わっていたあたしは、ずいぶん、剣呑な態度をとったと思う。
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でも、羽美はそんなこと気にもせず、なんの説明もなしに、あたしを音七の席まで引っ張っていった。
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ああ、確か、音七はこの時、すでに居眠り魔だったような。机に突っ伏して寝ていた気がする。
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そして、いきなりこう言った。なんの前置きもなしに。
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「ねぇねぇ、名前が一、二、三ってすごいよね! もうこれって運命だよね! あたしたち、今日から友達になろう!」
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はぁ、なんだこいつ、バカか。そう思った。
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一、二、三って、それだけかよ。それに、あたしの苗字は双野だから、二じゃないだろ。
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バカらしくなって、さっさと帰ろうとしたあたしの手を、羽美がつかむ。なんだよ、こいつってにらんでやったら、目があった。
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なんかもう、すっごいキラキラした、自分の言ったこと、少しも間違ってないって目をしていた。
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直感的に、ああ、ダメだ、これはつきまとわれる、追い払ってもムダだって思った。そして、それは当たってた。
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以来、あたしたちは、ずっと一緒にいる。多分、友達をやっている。羽美を中心に、いつも三人で。
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一木羽美
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ねぇ、沙紗。
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うわ。
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腕をつつかれて振り返れば、目の前に羽美の顔があった。近い、近いって!
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双野沙紗
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な、なに。
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一木羽美
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これこれ、このジュース、ちょっとあげるから飲んでみなよ。
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双野沙紗
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はぁ?
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目の前に差し出されたのは、キャップの開いたペットボトル。羽美が両手でわざわざラベルを隠している。
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ああ、「オススメ」の方なんだな。こうやって薦めてくるってことは。
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双野沙紗
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羽美、また変なの買ってきたんだろ。
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一木羽美
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ペプシの新作だから、間違いなし! ねね、飲んでみて、ものっそいおいしくないから。
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双野沙紗
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なんでいつもそんなの買ってくるんだよ、そして、なんであたしに飲ませたがるんだよ。
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一木羽美
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だって、おもしろいじゃん、こういうの。やっぱ、こういうのは友達同士で味合わないと。
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出たよ、まただよ。ほんとに、羽美は好きなんだな、こういうイベントと、友達って言葉が。
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ちょっとしたことを、ほんと楽しそうにあたしや音七に押し付けてくるんだから。こっちの都合、おかまいなしに。
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一木羽美
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ほらほら、飲んでみてってば。
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……もう。ほんと、羽美っておかまいなしだな。
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あのさ、わかってんの? それ、飲みかけだから、あんたがすでに口を付けてるんだよ?
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友達だからって、そういうの人に薦めてくる?
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……友達同士なら、別に、いいのか。
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双野沙紗
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はいはい、わかったってば。
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あたしはペットボトルを受け取って、開いている飲み口を唇につける。
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もうすでに、ちょっと湿っているのがわかる。そして……、すごい、ドキドキする。
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それをごまかすように、あたしはペットボトルをあおった。
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双野沙紗
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………………。
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炭酸が舌で弾ける。甘い。そして、口の中に広がるフレーバー。なんだこれ。ちょっと苦い?
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一木羽美
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どうどう?
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双野沙紗
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なんか、変な苦みがするんだけど。
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一木羽美
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へへへ、今日発売の新商品、ペプシごーや!
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双野沙紗
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……ホント、最低。
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あたしは、羽美にペットボトルを突き返す。誰だ、こんなフレーバー考えたの、バカか、死ね。
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一木羽美
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やっぱマズペプシは友達みんなで飲まなきゃね。
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一木羽美
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よーし、次は音七だ! 音七ぁ! ねぇねぇ、寝てないでこれ、飲んでみてよ!
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三山音七
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やだよぅ、マズいのなんか、飲みたくない~。
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ほんと、やりたい放題。羽美って。なんでこう、友達だからって、他人の中にズケズケ入ってくるかな。
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あたしみたいなの相手にも。
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grpo_bu1
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自分の見た目が、ちょっと近づきがたいのはわかってる。小さいころから長く伸ばしている髪で、幼稚園ではお化けとか幽霊とかからかわれた。
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目つきもノーメイクできついし、今じゃわざとそうしてるし。
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中学の時には、しっかり中二病にもかかった。
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自分ノート半分くらいに、自分で考えた占いの方法をびっしりまとめて体系化したりもした。お手製のタロットカードまで作ってみせた。
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おかげで、友達なんかいなくてもいい、孤高なのがかっこいいんだとか思っていて、人を避けていた時もあった。
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そんなふうにしてたから。わざわざ用もないのに話しかけてくる人なんて、いなかった。
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羽美を、のぞいては。
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羽美。もう病気なんじゃないかと思うほど、友情とか友達とか押してくる。すごい好奇心が強くて、イベントや新商品が大好き。当たっても外れても楽しめるお得なタイプ。
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思い立ったらよく考えずに行動するし、そのおかげですごい落ち着きなく見える。
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でも、裏表がないから、うれしくても怒ってても、こっちにぶつけてくる。
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人付き合いもうまくて、誰とでも仲良くなれるし、初対面の人にも物怖じしない。そんなの友達になった時からわかってる。
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そして、妙に頑固で。きっと、こいつの友達友達ってのも、そうなんだろうな。
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あたしにないものをたくさん持っている。羨ましくはないけど、まぶしくみえる。
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うるさい、そして、普通にウザい。でも、あたしにできた友達だった。
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だったのになぁ。
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三人で同じ九ツ星女子を選んで、合格して、入学した。その時までは羽美はただの友達だった。大切な。
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でも、入学式の日、待ち合わせの場所に現れた羽美の制服姿を見た時、なぜか、あたしの胸がときめいた。
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いつものように話しかけてきたのに、なぜかうまく返事ができなかった。
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気のせいだと思った。よくわからなかった。でも、その時覚えた気持ちは、いつまでも残った。消えなかった。
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そして、どんどん大きくなっていった。はっきりとしてきた。
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羽美のことが好きなんだ、間違いようもなく。
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そうはっきりと自覚してしまったのは、入学式から一年たった、ついこないだのこと。
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久しぶりに、頭を抱えて叫びたくなった。封印しておいた自分ノートを見つけてしまった時みたいに。
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それ以来。
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あたしはいつも、天国と地獄の間を行き来している。
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羽美が話しかけてくるたび、抱きついてくるたび、笑ってくれるたび。
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うれしくて仕方なくて舞い上がり。
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それを顔に出さないように、いつものようにそっけなく、邪険に扱って。
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それを後悔して沈み込む。
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さっきみたいに、飲みかけのペットボトル差し出されて、これ、間接キスだろなんて思うような毎日。
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これ、いつまで続くんだろう。
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三山音七
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ふぁ……、ちょっとトイレ~。
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いつものように部活を始めて、三人で担当しているお昼の番組の反省会と、来週の準備。
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いつものように、羽美が仕切って、あたしと音七とで適当に混ぜ返して、それで、ちゃんと仕事を進めて。
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適当にキリがよくなったところで、ふらふらと音七が立ち上がった。
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あー、この流れって。
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一木羽美
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トイレ!? わたしも行くよ! ほら、沙紗も行こ!
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ほら……。
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双野沙紗
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えー? あたしは別に……。
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一木羽美
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いいのいいの、トイレはみんなで一緒に行くものなの! だってわたしたち、友達じゃーん!
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なんで羽美は、こんなに一緒にトイレ行くの、好きなんだろう。羽美の中に、友達ってそういうものだって決まりでもあるのかな。あるんだろうな。
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三山音七
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えー、ついてくるの~?
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双野沙紗
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もう、いい加減、それやめなよ……。
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あたしも音七も、さすがにこれには閉口してるんだけど。
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一木羽美
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いいから行こ行こ! ほら、しゅっぱーつ!
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双野沙紗
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テンション高いトイレだな、もう……。
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ほら、やっぱり。
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あたしの前を、羽美が音七の手をひきながら歩いている。
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別に、羽美が音七と手をつないでいるからって、それに嫉妬したりはしない。だって、音七はあたしの友達だから。
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でも、その手がつかんでいるのが、あたしの手だったらって思うことはある。だって、あたしは羽美が好きだから。
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好きだって。そう羽美に伝えたらどうなるんだろう。
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羽美があたしのこと、嫌ってるとは思わない。でも、恋人になってほしいなんて好きを受け入れてくれるだろうか。
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普通、そんなこと、ない。あたしの気持ちはおかしい。女同士なのに、羽美が好きだなんて。こんなに好きだなんて。
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いくら羽美でもヒくよな、これ。それに音七だって。
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二人にヒかれたら……、わかってる、あたしたちの友情はお終いになる。
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そしたら……、羽美は悲しがるかな。音七はどうだろう。少なくとも、三人でこうして一緒にはいられなくなる。
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そんなの、ダメだ。だから、言えない。
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羽美は好き。でも、音七も大事な友達だ。あたしたちは羽美を中心に友達でいられる。
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その羽美との今の関係を壊すことなんて、できない。今のままで、いい。
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でも……。
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一木羽美
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ほら、沙紗~、遅れてるよ、早くおいでよ!
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好きなんだ、羽美。好きって、言いたいんだ。
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grpo
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grpo_ef
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