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相原美紀
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ごめんなさい、ホームルーム終わって、急いで来たつもりだったんだけど……。
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来た! 来てくれた!
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木曜日の放課後。わたしは、ホームルームが終わると教室から駆けだして、まっすぐに屋上に向かった。
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相原先輩はまだ来てなくて、誰もいない屋上だったんで、ちょっと不安になったけど、先輩の教室のある奥校舎からここまでの距離を思い出して、心を落ち着けた。
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そして、待つことしばしだった。
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先輩が、来てくれた。
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相原美紀
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ちょっと待たせちゃったかしら。
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牧聖苗
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ううん、そんなことないです!
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わたしは慌てて首を横に振る。全然待ってない。それよりも。
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いつの間にかカバンに入ってたあんな手紙、あんなことが書いてある手紙、それをちゃんと読んで、こうして来てくれたのがうれしかった。
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相原美紀
>
あ、あの、それで……。
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牧聖苗
>
は、はい。
>
相原美紀
>
話したいことって……、なにかしら……。
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牧聖苗
>
は、はい!
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牧聖苗
>
あ、あの……。
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何度も考えていたのに、何回も頭の中で練習したのに、いざとなったら言葉が出てこない。
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牧聖苗
>
わ、わたし……!
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どうしよう、すぐに次の言葉が出てこない。
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先輩の顔が、すぐ近くにあるのに、ぐるぐる回って見える。ああ、なんか困ってるっぽい!
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そうだよね、あんな、なんかもう、思いの丈ってのをぶちまけちゃった手紙を読んでくれたんだもの。
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わたしがこれからなにを言い出すのか、わかっちゃってるのかな? それで困ってるのかな?
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でも、でも、わたしが言わなくちゃ!
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牧聖苗
>
わ、わたし……! せ、先輩のことが、す、す……。
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言え、言っちゃえ、わたし!
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牧聖苗
>
す、好きなんです!
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相原美紀
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………………。
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あああ、びっくりしてる。そんな感じっぽい。
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牧聖苗
>
ああ、あの、わたし、変なこと言ってるってわかってます。
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牧聖苗
>
わたし、女の子で、先輩も女の人だって、わかってます。でも……!
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牧聖苗
>
先輩のこと、好きなんです! ほ、ほんとに!変だってわかってるけど、変なことだと思うかもしれませんけど……!
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牧聖苗
>
好き……、なんです!
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い、言った……! 言っちゃった……!
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言い終えたことで、ちょっと気持ちが落ち着いたのかもしれない。改めてわたしは先輩の顔を見た。
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相原先輩は……、その、なにかとても困ったような顔をしていた。そう、だよね、いきなり一回しか会ったことのない一年生にこんなこと言われて……。
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牧聖苗
>
ご、ごめんなさい、先輩。あの、わたし、変なこと言っちゃって……。
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相原美紀
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え、あ、うん……、ううん、その……。
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牧聖苗
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でも、ほんとに……、あの日、先輩に助けてもらってうれしかったんです。汚れた制服、きれいにしてもらって、うれしかったんです。
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牧聖苗
>
それで、素敵な先輩だなって思って。それからずっと、先輩のことが気になって、気になって、それで……。
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牧聖苗
>
こんなのって、変ですか……。女の子同士なのに、こんなのって……、あり、なんでしょうか……?
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わたし……、なんで先輩にこんなこと聞いているんだろう。でも。
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変でも、いい。ありだって言ってほしい。
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相原美紀
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あ、あの、牧さん……。
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牧聖苗
>
はい!
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相原美紀
>
変かどうかって、その、ありかどうかってのは、よく、わからなくて……。
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牧聖苗
>
………………。
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そっか、そうだよね……。
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相原美紀
>
でも……。
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相原美紀
>
手紙に書いてあった、牧さんのお礼の言葉は、わたし、とてもうれしかったの。
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牧聖苗
>
え……?
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相原美紀
>
ちょっと案内してあげただけなのに、あんなに感謝してくれたの、うれしかったのよ。
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相原美紀
>
だから、こんな人と、友達になれたらうれしいなって、そう思ったの。
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牧聖苗
>
え、えと、先輩……。
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相原美紀
>
だからね、まずはその、友達から、ね?
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牧聖苗
>
先輩……。
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えっと……、うれしいのかな、これって。いいのかな、友達なら……。
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相原美紀
>
ごめんなさい。牧さんの好きがわたしにはまだ、よくわからないから……。友達として、まず好きになってみようと思うの。
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相原美紀
>
それじゃ、ダメかしら……?
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牧聖苗
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い、いいえ!
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ダメじゃない!
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牧聖苗
>
わ、わたしも先輩と友達になりたいです!
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う、うん、まずは友達から、それでもいい! だって。
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相原美紀
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よかった……。うん、まずは友達から始めましょう。そこからなら、牧さんのこと、きっと好きになれるし、好かれたいって思うわ。
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わたしのこと、好きって言ってくれたから。
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先輩が、わたしのこと、そうやって好きになってくれるなら。
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相原美紀
>
それから先は、ゆっくりと考えていきましょう。わたしも、よくわからないから。
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牧聖苗
>
はい! 先輩、これからよろしくお願いします!
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相原美紀
>
ええ、こちらこそ。よろしくね、……牧ちゃん。
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牧聖苗
>
はい!
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やったぁ! やっぱり、うれしい! 先輩と友達になれた! 好きって言ってもらえた! それに、牧ちゃんって!
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心の中でガッツポーズを決めた時、背中の方からかすかに、なにか、拍手みたいな音がした。
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誰かいたのかなって思って振り返ったけど、そこには誰もいなかった。
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相原美紀
>
どうしたの、牧ちゃん。
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牧聖苗
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あ、いいえ、なんでもないです。あの、今日はありがとうございました。
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相原美紀
>
ううん、こちらこそ。あ、ごめんね、せっかく友達になれたのに、わたし、ちょっと今から委員会の仕事があって……。
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牧聖苗
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あ、いいんです! それよりも! あの、わたしもお手伝いしていいですか?
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相原美紀
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え……?
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牧聖苗
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お手伝いしたいんです、先輩の! 一生懸命やりますから!
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相原美紀
>
え、ええ……。
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先輩と一緒に、屋上を出る。最後にもう一度、音が聞こえた方を振り返ったけど、やっぱり誰もいなかった。
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うん、でも、誰もいなかったよね。でも、なんか聞こえた気がした。
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おめでとう、そんな声も。
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