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「相原もさぁ」
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聞こえてきた、教室の中の声。扉越しに廊下から聞く時は、いつもドキリとする。そして、今日はズキリ、とも。
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「ほんとよくやってくれるよねー」
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あ、ダメだ、この感じ。わかってても、ダメ。
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夏休み、比奈に話したことで、ちょっと気持ちの整理もついたけど……。
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「ほんと、助かるわぁ。頼めばなんでもやってくれるんだもん」
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「楽できるよねぇ」
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こんな言葉、聞きたくない。中で話している人たちだって、聞かせたいわけじゃないんだから。でも。
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口から出た言葉は、誰かに届く。こうして、今、私に思いもよらず、届いてくることも、ある。
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「やっぱ、クラスに一人はいてほしいよね、ああいうの。ありがたいって」
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永谷恵
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ゆ、結奈……?
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背中にくっついてここまでついてきた恵が、心配そうな声をかけてくる。わかっちゃったのかな。
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今、恵、私に憑依してるから。私が今、どんな気持ちでいるのか。ううん、今、ひどく鼓動が痛くなってることが。
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「ほんと、頭下がるー」
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ここに来たのは、サチさんからの情報で。
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相原先輩たちの増える仕事の中で、特にたくさん、いろんなことを押し付けてる人がいるってこと。それは、先輩のクラスメイトの写真部の人たちらしいって。
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どうする気もなかったんだけど。その人たちに、直接注意するとか、そんなつもりもない。そこまで出しゃばる気はなかった。
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ただ、どういうつもりなのか、確かめたかっただけ。なにか、解決のヒントがあるかなって。そう、思っただけ。
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だけだったのに。だから、こんなこと、聞きたくなかったのに。
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「あれってさぁ、絶対……」
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「マゾだよねー」
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遠見結奈
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っ……!
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永谷恵
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ちょ、ちょっと結奈! 乗り込む気!?
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遠見結奈
>
あ……。
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そんなつもりはなかった。けど、ドアに手をかけてた。
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危ない……。たまらず、乗り込むとこだったんだ。
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恵が声をかけてくれたことに、ちょっと感謝。ほっとした、その時。
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すごい勢いで扉が開く音。
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遠見結奈
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え?
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永谷恵
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あ、あっち!
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私のいる方と反対側のドアが、思いっきり開かれた音だった。振り向いてみれば、開け放たれたドア。そして。
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遠見結奈
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え、今、入っていったのって……。
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永谷恵
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牧ちゃん!?
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一瞬だけ、教室に入っていく一瞬だけ、見えた姿は、相原先輩を慕っている牧さんのものだった。
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遠見結奈
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ど、どうしたのかな?
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永谷恵
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わ、わかんない、けど……。
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私は慌てて、恵をくっつけたまま、牧さんが入っていったドアに駆け寄って。
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教室の中をのぞき込んだ。その瞬間だった。
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「きゃあ!」
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牧聖苗
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ふざけんなぁ!
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すごい音。思いっきり、机が蹴り飛ばされた、音。
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蹴り飛ばしたのは牧さんで……。
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遠見結奈
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ま、牧さん……!?
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信じられなかった。小柄な牧さんが、三年生の先輩が腰をかけている机を蹴り飛ばす光景なんて。
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そして、床に転がり落ちた先輩に馬乗りになって、胸ぐら、つかみあげているなんて。
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「ひっ、やっ!」
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牧聖苗
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あんたらなぁ! 今、なんつった!? ああ!?
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すごい、大声。怒鳴りつけているなんて。
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「ひ……、ひぃ……」
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牧聖苗
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言ってみろ、もっかい言ってみろぉ!
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牧聖苗
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マゾ、だぁ!? マゾって言ったのか!? てめぇ、美紀さんのこと、マゾって言って笑ったのか!?
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「ちょ、な、なにこいつ!」
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牧聖苗
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黙ってろ!
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うわ、すごい。かわいいって印象の牧さんが、とんでもない声でまわりを、私と恵をも、圧倒してる。
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止めようとした他の二人の三年生も、牧さんの声で、怯んだのがわかる。
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牧聖苗
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なんで、てめぇが……。
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牧聖苗
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美紀さんのこと、笑ってんだぁ!
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「や、やだ……。ちょ、ちょっと……。誰か……!」
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呆然と、牧さんの姿を見つめてる私の横を、二人の三年生が走って廊下へと出て行く。
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ど、どうすればいいの、これ……。
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永谷恵
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ちょ、ちょっと結奈……。これって、止めた方がいいんじゃないの……?
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遠見結奈
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そ、そうだけど……。
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でも、怖い。正直、怖い。牧さんの声に圧されて、足が動かない。
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牧聖苗
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美紀さんに仕事、押し付けて、てめぇは楽して、そんでもって美紀さんのこと笑ってんのかぁ!
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牧聖苗
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もっぺん言ってみろ! 美紀さんのこと、マゾだって言って笑ってみろ!
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牧聖苗
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二度とそんなこと言えないようにしてやる!
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うわ、ほんとに怖い。で、でも、止めないと……。
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遠見結奈
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っ……!
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私は勇気を振り絞って、教室の中に入っていく。
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なるべく、牧さんの後ろから近づいて。だって、牧さんから見えるとこから近づいたら、怒鳴られそう。そうしたら、立ちすくんじゃう。
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牧さんに馬乗りにされた三年生の人、うわ、ほんとに泣いてる……。
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遠見結奈
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ちょ、ちょっと牧さん!
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なんとか、声を出す。考えてみれば、面識、ないんだけど、そんなこと言ってられない。
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遠見結奈
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もうやめて!
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ダメだ、聞いてもらえない。ただ、三年生をにらみつけてる。大丈夫かな、あの襟、締まってないよね?
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どうしよう、どうしたら、牧さんを止められるだろう。そう考えてると。
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廊下から、こっちに走ってくる足音が。
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遠見結奈
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マズい! 先生!?
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永谷恵
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あ、ちがう!
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遠見結奈
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あ……。
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教室に入ってきた人は。息を切らせて、入ってきたのは。廊下を走るなんてイメージできない人で。相原先輩で。
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相原美紀
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ま、牧ちゃん……!
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でも、相原先輩の声も、今の牧さんには届かないのかな……。牧さん、まだ止まらないみたい。
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ほんとに、どうしよう……。
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牧聖苗
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てめぇが美紀さんのことを……!
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また、牧さんが三年生の胸ぐらをつかみ上げて引き起こしたところで。
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相原美紀
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聖苗!
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相原先輩の声が、響いた。その瞬間、牧さんの動きは、ピタリと、止まった。
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牧さんが、ゆっくりと振り返る。呆然とした、顔で。
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牧聖苗
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美紀さん……。
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美紀さん、まだ息が切れたままだけど、牧さんに声をかける。
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相原美紀
>
はぁ、はぁ……。だ、ダメ、聖苗……。
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相原美紀
>
もう離してあげて。……ね?
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相原美紀
>
乱暴なこと、しちゃ、ダメ。ね、聖苗。
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牧聖苗
>
……はい……。
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やっと、牧さんが三年生の人を離してくれた。
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遠見結奈
>
はぁ……。
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緊張で詰まっていた息が漏れる。
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立ち上がった牧さんは、ちょっとうなだれてて。
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相原美紀
>
どうして……、こんなこと、したの?
>
牧聖苗
>
………………。
>
相原美紀
>
話して、くれる?
>
やさしく声をかける相原先輩に、少しずつ、答える。
>
牧聖苗
>
そ、その……、こいつ……、こ、この人たちが……、その、美紀さんのこと……。
>
「あ、相原……、あたしたち、別に……」
>
ようやく牧さんから解放された三年生が、そう、なにか言おうとした時。
>
牧聖苗
>
っ、黙ってろ!
>
うわ、また牧さんに火がついた。ほんと、怖い。
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牧聖苗
>
あんなこと言っておいて、馴れ馴れしく美紀さんに声かけんな!
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相原美紀
>
聖苗!
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牧聖苗
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っ……、だって!
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grpo_bu1
>
grpo_bu1
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相原美紀
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もう、いいから……。
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相原美紀
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そんな大きな声、出さないの。
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相原先輩は、牧さんを叱ったりするわけじゃないみたい。ただ、牧さんの手を取って、やさしく抱き寄せた。
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そのまま、まだ、座り込んでる三年生の人に、声をかける。
>
相原美紀
>
あの、ね……。
>
相原美紀
>
わたしも、できる限り、みんなのこと、手伝いたいって思ってるの。
>
相原美紀
>
今、みんな、忙しいから、ね。だから、できるだけ、いろんな人の。
>
相原美紀
>
だから……。できることは、自分でやってほしいの。それでも大変な時は、いつでも言ってくれていいから。
>
相原美紀
>
それなら、わたしもよろこんで、手伝わせてもらうから。これからは……。
>
相原美紀
>
わたしが手伝わなくても大丈夫そうな時は、断っても、いいかな?
>
相原美紀
>
わたしも、聖苗も、手伝った人が、助かったって思ってほしいから。誰かの手伝いをするなら……。
>
相原美紀
>
そういう気分のいいことを、したいから。ね……。わかってもらえる?
>
少し、二人から離れたとこで、私はその相原先輩の言葉を聞いていた。
>
それは、今までの相原先輩を知っていたら、意外に思う言葉。
>
どんなことでも引き受けていた先輩が、今、言ってる。なんでもは手伝えないって。それは……。
>
どんな気持ちで伝えたんだろう。なんで今、そう言えたんだろう。ただ、わかるのは。
>
ずっと、相原先輩、牧さんの肩を抱いていたということ。やさしく、自分のそばに引き寄せて。
>
あの牧さんの姿を見ても、やさしく、そうしているってこと。
>
……もう、これ以上、ここにいなくてもいいかな。
>
私は、そっと音を立てないようにして、教室を出た。
>
榎木サチ
>
牧ちゃんって、すごいとこ、あるのね。
>
永谷恵
>
あ、サチさぁん!
>
遠見結奈
>
……来てたんだ。
>
そして、今、気付いた。廊下、ちょっとした数の野次馬が集まってる。それもそうかな、あれだけ牧さんの声が響いていたんだから。
>
それにしても、サチさん、野次馬に同化してないでよ……。
>
榎木サチ
>
美紀ちゃんがすごい勢いで走ってるのを見たのよ。それで、なにかあったのかなって追いかけてきたの。
>
いいとこだけ、見ていくなぁ。幽霊ってほんと……。
>
榎木サチ
>
……美紀ちゃんにも、きっと伝わったのね。
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遠見結奈
>
え? なにが……?
>
聞こうとしたけど、そこで、廊下の向こう側からやってくる足音と声に気付いた。
>
遠見結奈
>
あ、先生……。
>
さっき、逃げていった人たちかな? 先生に教えたの。きっと、相原先輩もそうだったのかな。
>
先生が、私たちの前を通り過ぎて。
>
「ケンカをしてるのは、ここか!?」
>
教室に入っていく。まぁ、もう、どうしようもないか……。
>
「ケンカの当事者は誰だ!?」
>
そんな声の後、牧さんの声が教室の中から響いてきた。
>
牧聖苗
>
ケンカじゃないです! 殴ってもないし、殴られてもいません!
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grpo
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grpo_ef
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grpo_bu0
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grpo_bu0
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grpo_bu0
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